第104話 行商人のあんちゃん

「おう、ねーちゃんら、おはよーさん」


 家畜小屋の掃除を終えて外に出ると、完全装備姿のねーちゃんらがいた。


「おはよう、ベーくん」


 騎士系ねーちゃんが代表して挨拶を返してくれた。他は笑顔と手をあげて応えてくれた。


「今日はどこいくんだい?」


 昨日、エリナんところから帰る途中、ねーちゃんらには続けて村の周辺調査をお願いしたのだ。


「昼前まで北進んだら大きく西回りで帰ってくるわ」


「そーか。ねーちゃんらには不要だろうが、油断すんなよ。オークの部隊が一隊とは限らねーからな」


 オークの部隊がアルマランからきたことや魔王級の配下なのも言ってある。


「ええ。充分気をつけるわ」


 まあ、騎士系ねーちゃんは、無謀とは無縁っぽいし、斥候系ねーちゃんは探索能力が高い。魔術師系ねーちゃんは多彩な魔術を使える。アリテラは万能系であらゆる状況に対応できる──と、それぞれが評していた。


 年は若いが、経験は豊富で修羅場も何度か経験してるとか。B級になるどころかА級になるのも時間の問題だろうよ。ま、オレの適当な読みだがな。


「じゃあ、いってくるわ」


「無事帰ってこいよ」


 山を下りていくねーちゃんらをしばらく見送り、朝食を取るために家へと戻った。


 サプルの旨い料理を堪能した後、薪を集落に持っていくため荷車へと積み込む。


 まだ深刻な薪不足にはなってなねーし、魔物による被害は出てねーが、いつ解決するともわからねー日々を送ると言うのは、結構精神的にくるもんだ。山の部落での伐採自粛も村には広まっていることだろう。


 日が経つに連れ、薪がなくなっていけばさらに人々の不安を掻き立てる。ちょっとのことだが、この時代は死がすぐ側にある。まあ、それはしょうがねーんだが、死の恐怖でなにをするかわからねーのが一番の問題であり、なったら対処できねーのが怖いのだ。


 そうならねーためにも薪を減らすことはできねーし、ねーちゃんを休ませることはできねー。いつもの生活を送らせることが村を守ることなのだ。


 つっても、オレ一人の力では限界があるが、やらねー努力よりやる努力。村が大事なら頑張れ、だ。


 薪の積み込みが終わり、リファエルを連れてこようと隣んちの牧草地に行こうとしたら、下から見慣れた荷馬車と見慣れぬ荷馬車が上がってくるのが見えた。


 見慣れた荷馬車の御者席には行商人のあんちゃんと、あんちゃんと同じ年齢(二十五歳くらい)の上品な旅用の服を纏った白銀の髪を持つねーちゃんが横に座っていた。


 見慣れぬ荷馬車には、あんちゃんより年下で、十八、九の、なんだかあんちゃんによく似た白に近い灰色の髪を持つあんちゃんだった。ちなみに行商人のあんちゃんは濃い灰色の髪だ。


 しばらくして二台が我が家へと到着する。


 一応的に我が家の周りには柵が立ててあるが、隣との境なんてあってないようなもの。いや、ねーと断言してもイイくらいなので、あんちゃんも適当に荷馬車を停め、馬を牧草地に放した。


「無事到着ご苦労さん。道中は順調だったかい?」


「ああ、お陰さんで盗賊にも魔物にも会わなかったよ」


 いつの間にかオレたちの挨拶になった言葉を交わした。


「昨日は悪かったな。ちょっと出かけてたもんでよ」


「構わんさ。いつくるなんて言ってないんだからな」


 商人とは思えねー口調だが、売り手と買い手と言うよりは取引相手と言った方がしっくりくる関係であり、一番仲のイイ友達って感じの間柄だ。


「まあ、なんにせよ、よく来たな」


「ああ。世話になるよ」


 いつものように拳と拳をぶつけあって再会を歓びあった。

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