第103話 ゆっくり休みてー
「え? 帰っちゃうの?」
さて帰るかと言ったら、斥候系ねーちゃんからの突っ込みが入った。
「なんかまずいのか?」
意味がわからず首を傾げると、なにやら戸惑いの顔を見せる斥候系ねーちゃん。
「あ、いや、これからってときに帰るとか言っちゃうからさ……」
ああ、なるほどね。
「武具も罠も策も渡した。あとは、エリナたちで充分だろう」
「で、でも、ベーもいった方が早いんじゃ……」
「かもな。けど、そこまではやってられんよ。まあ、散々手を出しておいて今更だが、これはエリナたちの問題。エリナたちが解決しなくちゃならねーもんだ。それに、オレは正義の味方でもなけりゃあ、勇者でもねー。たんなる村人だ」
「説得力ないけどね」
魔術師系ねーちゃんがポロと溢す。
「別に他人に認めてもらおうとは思わねーし、わかってもらえなくても構わねー。ましてや自分の行動に制限をかける気もねー。オレは反省しても後悔する人生はしねーって決めたんだ。だからこれは村人でいることは自分自身への誓いであり宣言だ。村人以外になるつもりはねーってな」
もう前世のように腐るのは嫌だ。生きることに失望したくねー。好きなことを好きと言える人生にしてーし、バカなことをバカになるくらいやりてーよ。できるかわかんねーが、今世じゃ結婚もしてー。子どもを育ててー。好きな相手とケンカしたりいちゃついたり、おしゃべりしたり、肩を並べてお茶飲んだり、いろいろやりてーよ。
「……オレが一番に守るべき場所は、オレがオレでいられるあの村だ。だから、村での生活を疎かにするつもりはねーし、邪魔されるつもりもねー。村を襲おうってんならオレが相手だ。チリ一つ残さねーくらい殲滅してやんよ」
仮令それが魔王だろうが国だろうが関係ねー。全力で潰してやるさ。
「自分の居場所くらい自分で守れ。ここは自分の居場所だと叫んでみろ。オレに、そんなカッコいいヤツと友達になれたと自慢させろや!」
つーか、恥ずかしいわ! なに言ってんだ、オレは!
皆の視線から逃げるようにダンジョンから逃げ出した。
が、その前にダンジョンの周りを結界で囲み、指定した者以外、侵入できないようにする。
終わるとそのまま村へと帰った。
家に着く頃には陽が傾き、オカンやサプルは外の仕事を終わらせ、夕食の準備に取りかかっていた。
「あんちゃん!」
「ベー!」
心配していただろう二人に笑顔を見せた。
「遅くなってワリーな。無事帰ってきたぜ。もちろんトータもな」
オレの背中で気持ちよさそうに眠るトータを見せてやった。
「オカン。トータを頼むよ」
「ああ、わかったよ」
天然でごーいんぐまいうぇ~いなオカンだが、母親は母親。大切な子供が無事帰ってきたのだ、思いっきり抱かせてやるのが子供の役目ってもんだ。
「サプルにも心配させて悪かったな」
純真そうに見えてサプルはうちで一番のアイアンハートを持つ女であるが、決して冷血なわけではない。それどころか縁の下の力持ち的な優しくてイイ女である。そこをちゃんと理解し、感謝し、大切にして接してこそ、兄としての役目が立つってもんだ。
「うん。大丈夫だよ。すぐに夕食作るね」
笑顔を見せて料理を再開させた。
ほんと、エエ妹や……。
「あ、そーだあんちゃん。お昼に行商人のあんちゃんがきたよ」
「お? もうきたのか。もうちょっと先だと思ってたんだがな」
まあ、いついつくるとは約束してねーが、なんとなくくる日はわかるのだ。
「うん。本が早く手に入ったんだって。あと、あんちゃんに話があるから早目にきたってさ」
港のことか?
「あ、そー言やぁ、あんちゃんの泊まるとこ考えてなかったな」
いろいろありすぎて忘れてたわ。
「だから今日はバンナさんとこに泊まるって。明日の朝来るって言ってた」
バンナさんとは、村で唯一の宿屋の女将さんだ。
「そーか。なら、なんとかなるな」
半日もあれば簡易的な家は造れるし、食事や風呂はうちでやってたから問題はねーしな。
「あんちゃんに、ねーちゃんらを紹介しねーとな」
まあ、それも明日でいっか。今日はゆっくり休みてーよ。
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