第102話 魔王は意外と近くにいたりする
「えー」
思わずそんな声を出してしまった。
珍妙どもを受け入れはしたが、これはいくらなんでもねーだろう。あそこを譲れねーのならコレも譲んなよな……。
「おや、客人でしたか。これは申し訳ない」
白い毛の犬耳とフサフサなしっぽを生やしたナイスなミドルさんが深々と頭を下げた。オレたちを認識したと同時に出した凶悪そうな爪も。あ、ちなみに甚平姿です。
「どうしたの、ベー?」
戦闘態勢のアリテラがナイスなミドルさんを睨んだまま尋ねてきたが、納得できねーオレには反応することができなかった。
「なんだよ、アレは? 邪道じゃねーか!」
思わず横にいるエリナに文句を言ってしまった。なにやってんのオレ?!
「拙者、犬が苦手でござる」
「んじゃやんなよっ!」
アホか! いや、アホだけど、意味わからんわ!
「イチ蔵どの。早いお帰りでござったな?」
クソ。おしぃー! とも突っ込めねー名前だな、こん畜生が!
「はい。オークの群れを発見したもので急いで報告に戻りました」
オークだと? そー言やぁ、この珍妙どもにオークはいねーな。いやまあ、オークのイケメンなんて想像したくねーがな。あ、獣人タイプか? ねーわ、それ。誰も得しねーよ。
「ま、まさか、あのオークどもでござるか!?」
ん? 知り合いか?
「はい。臭いからしてあいつらです」
「なんだ、敵か?」
その慌てぶりからして仲の良い関係ではなさそーだ。
「そうでござる。ストーカーでござる! 気持ち悪いエロブタでござるよっ!」
あー、うん。ちょっと待ってね。今、頭と心の整理をするからさぁ。
………………。
…………。
……。
はい、整理できました。続きをどーぞ。
「風の勇者にやられて各地をさ迷っているとき、アルマランと呼ばれる地で遭遇したでごさるよ」
アルマラン、か。確か、この国と隣の国、そして帝国に重なる魔境だったっけ? とにかく広くて多種多様な魔物や下位の竜が生息するとかなんとかと聞いたよーな気がする。
「悔しいでごさるが、あのエロブタは、オークキングでアルマランの一角を支配する魔王級のブタでござるよ」
なんつーか、魔王とか身近にいんだな。びっくりだよ。
「なんでそんなブタがエリナを狙うんだ? 領土問題か?」
エリナや珍妙どももそれなりの力を持っている。ましてやエリナはダンジョンマスター。魔王とも言えなくないだろう。
「あのエロブタ、拙者の体を狙ってるでごさる」
はぁ?
「……ワ、ワリー。意味がさっぱりなんだが……?」
お前食うと不老不死にでもなんのか?
「ベーさま。マスターの肉体は豊満ですから……」
言われて納得。確かにエリナの体はこの世界ではあり得ねーくらいエロいわ。そりゃ、性欲が七割を占めると言われるオークがほっとかんわな……。
「──ふげっ!」
と、またアリテラに頭をチョップされた。ほんと、なんなのちみはっ!?
抗議の目を向けるが、なんかもエエ笑顔に負けて視線をずらしてしまった。
「ガンバレ」
「ガンバレ」
「ガンバレ」
だからその突っ込み三重奏はヤメろ! 胯間がキュッするわ!
「……ヴィ、ヴィどの、助けてくだされござる。あいつら、強いのでござるよ……」
「そうなのか?」
と、バンベルに問う。
「はい。兵士級一個小隊ならリックスでも太刀打ちでなるのですが、奴らの部隊は皆上等兵士級で魔術を使用します。それに最低でも二十匹編制の中隊で行動しますのでバリアルでも勝てません」
そりゃ確かに結構なヤツらだな。
「ん? オーク、ね」
今、ちょっと閃いちゃったよ。
「エリナの方の戦力はどれくらいだ?」
「リックス率いるゴブリン部隊、四十。バリアル率いる部隊、五。チャーニー率いる偵察部隊、六。防衛としてわたしとイチ蔵どのが控えております
少ねーな、おい。そりゃオレでも助けを求めるわ……。
「オレが武具と捕獲用の罠をやる。そいつら生け捕れ。絶対に殺すなよ」
武器庫と連結し、中から武具を取り出した。
「ワリー、ねーちゃんら。こいつらに使い方を教えてくれ。おい、イン子。お前には罠の使い方を教える。上手くブタどもを捕獲しろ」
マンションの扉の陰からこちらを見るイン子に言った。
「イン子じゃないモン! チャーニーだモン!」
「あーはいはい。チャーハンな。わかったからこっちこい。お前の働き次第でエリナの運命が決まんだからよ」
「チャーニーどの。お願いでごさる」
「ブー。マスターのお願いならしょうがないの」
さすが部下製作能力。ハンパないわー。
まあ、とにかくこの閃きはイン子にかかっている。上手く捕まえてくれよ。ケッケッケ。
「……ベーが一番の魔王よね……」
もー村人ですってばっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます