第101話 マジ、つらたん
「マジ、つらたんでござった……」
見た目は子供で中身は大人なオレだが、そんな知力に優れた人間ではない。助けてくれと言われたからと言ってそう簡単に名案がでるわけがない。
だがまあ、考えるな、感じろで生きてきて、それなりにやってこれた。だから取り合えずエリナの過去を聞くことにした。
なんでも神(?)に見送られあと、意識が暗転したと思ったら六畳ほどの密閉された部屋にいたそーな。
戸惑いと恐怖で一月は動けなかったそうだが、魔力減少に生命の危機を感じたらしく、ダンジョン製作能力で外に出たらしい。
まあ、運良く夜だったようで、即消滅は免れたが、そこは魔物がうじゃうじゃいる秘境らしく、すぐに部屋に戻ったそーだが。
生命の危機は感じるものの一介の女子であり、引きこもりに戦える術はない。ましてやダンジョン製作能力……つーか引きこもれる場所の製作能力で戦いなどできるわけがないと、炬燵に潜ってさらに一週間くらい引きこもったそーな。
だが、恐怖を上回るほどの生きたいとの衝動に掻き立てられ、引きこもれる場所の製作能力でどうやって生き残れるかを考え、罠を張り、補食することを思い付いたのことだ。
つっても、魔力は残りわずかで落とし穴を創り、串刺しにと土を尖らせるのがやっとだったらしい。
「まさかオークが集団で入ってくれるとは夢にも思わなかったでござる」
まあ、運がイイと言っておこう。なにしろ、そのお陰で生命力を頂けることができ、沢山の魔力で部屋を拡張でき、さらなるエサを招き入れることができたんだからな。
「それからは呆れるくらい順調でござった」
魔物がうじゃうじゃいる秘境。入れ食いがごとく魔物を補食し、もはやダンジョンと呼べるものとなり、生活環境は前世に匹敵するくらいに整えることができたとか。
が、そこまでくると一人では身の回りをもちろんのこと、ダンジョン内の維持管理、清掃が追いつかなくなったそーな。
もちろん、魔力でどうとでもできるそうだが、維持管理や清掃にも魔力は必要であり、なにより働くのが嫌だったらしく、そこで部下製作能力があることを思い出したそうだ。おせーよ!
とは言え、筋金入りの引きこもり。そう簡単に部下が作れるほどアグレッシブではねー。
まず試しにと、偶然迷い混んできたスライムを捕まえ、部下製作能力で進化させ、身の回りの世話兼抱き枕にしたそーな。それがバンベルとのことだ。
まあ、スライムを捕まえ、いろいろ進化させてスライム軍団を作り、維持管理や清掃を任せたが、スライムはスライム。そうそう都合良くは動いてくれなかったとか。で、これまた偶然迷い混んできたゴブリンを捕まえて部下にして任せた。
ほどよくは役に立つが、見た目が嫌だと、ゴブリンを戦士に仕立て直し、ダンジョン内に魔物を引き込ませる役を命じた。
これも上手くいき、理想的な引きこもり場所となったのだが、魔物の減少は人間たちの不審を買い、やがて冒険者がダンジョンを発見。ゴブリンに装備させた武具に色めき立ち、更なる冒険者を呼び寄せ、ついに風の勇者なる天敵を呼び寄せてしまったそーな。
風の、と言う異名を付けられるだけあってその勇者の実力はA級冒険者と同等であり、勇者の仲間たちも実力者揃い。あっと言う間に駆逐され、追い詰められたよーだ。
部下製作能力と言うのは実に恐ろしい能力だったよーで、だれ一人(いや一匹か)退くことなく、エリナを逃がすために玉砕したそーな。
「……悔しいより悲しかったでござる。拙者がもっと強かったら死なせずに済んだでござる……」
「なんと言ってイイかわかんねーが、その気持ちを忘れねーことだな。覚えている限り、死んだヤツらは無駄死にじゃねーしな」
「……うん……」
「まあ、なんだ。ここにきて何年になんだ?」
「……え、えーと、何年でござっただろうか?」
バンベルを見るエリナ。
「だいたい五年になります」
「五年、か。よく出会わなかったもんだな」
十キロは離れているとは言え、ド田舎の十キロなんてご近所みたいなもんだ。会わなかったことが奇跡だぜ。
「慎重に、なるべく人を避けて生きてきましたので」
まあ、あんなことがあれば当然か。
「にしてもたった五年で珍妙な部下を作ったな。並の冒険者じゃ太刀打ちできんぞ」
ねーちゃんらなら負けることはねーだろうが、そう簡単に勝てる珍妙どもでもない。苦戦はしていたことだろうよ。
「いろいろ苦労したでござる」
うん、まあ、これだけのものを製作するんだから苦労しない方がどうかしてるよ。
「どうでしょうか。なにかいい案はおありでしょうか?」
「んーーー。ねーな。つーか、勇者に狙われてるのか、今?」
「いえ、幸いにして気付かれてはいません。ただ、魔力不足で現状維持がやっとと言う状況であります」
「なら、現状維持を続けろ。この周りに認識齟齬の結界と物理的な結界を施す。ねーちゃんらには黙っててもらうようオレが頼んでおくからよ」
「わかりました。ですが、補食はなんとかならないでしょうか? マスターの魔力不足は深刻な状況なのです」
「補食って、命ならなんでもイイんだろう?」
話からして人間とは限定してなかったしな。
「はい。命であれば問題はありません」
「なら海から引っ張ってくるよ。海には生命力溢れたイキモンが多いからな。まあ、イイ案が出るまでの接ぎだ。今はそれで我慢してくれ」
いや、ないこともないのだが、今は空想的な域でしかねー。ゆっくり考えさせてくれ、だ。
「わかりました。よろしくお願い致します」
「すまぬでござる」
はぁ~。マジつらたんだよ。
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