第100話 ノーと言えない村人

「拙者が望んだのは、このままで転生させてくれと引きこもれる場所の製作能力。そして、部下製作能力でござる」


 なんつーアホことを、と言いてーが、オレも願った身だ。他人にどうこう言える身分じゃねー。


 それどころか今更ながらにして三つの能力に恐怖を覚えたぜ……。


 オレには前世の記憶があり、両親に恵まれ、環境に助けられた。


 どれか一つでも欠けていたらオレの人生真っ黒。よくて前世と同じ灰色だったことだろうよ。


「……なんかもう悪意しか感じねーな……」


 神(?)かと思ってたが、悪魔だったかもな、アレは。


「ヴィどのもそう思うでござるか。前世の神も神なら今世の神も神でござる。もはや神々の暇潰しに使われてるとしか感じんでござるよ!」


 だな。完全に介入ありきのお詫びじゃねーか。それとも前世の神(?)は今世の神(?)に恨みでもあんのか?


「まあ、なっちまったもんはしかたがねー。これからどうするかだ」


「ヴィどのは前向きでござるな。拙者、直視できんでござる」


「今世のオレの目標は、『イイ人生だった』って死ぬことだからな、過去なんて年取ってから見ればいい」


 前世じゃわからなかった生きる意味を今世で知った。ならば、後悔している暇はねー。今を生きよ、だ。


「話を戻すが、このままで転生って、ことは死んだまま転生ってことでイイのか?」


「……不本意ながらそうでござる……」


 まあ、そう言ってしまう心情はわからなくはないが、なんともアホなことを言っちまったもんだな、ほんと。


「しかしまあ、リッチなだけマシと思うしかねーな。これがスケルトンとかゾンビだったら目も当てられねーよ。つーか、陽の下に出れんのか?」


「無理でござる。消滅でござる。一度出てあやうく灰になるところだったでござる」


 難儀なこっちゃな~。


「リッチになったのは理解した。で、引きこもれる場所の製作能力がダンジョンマスターになったってことか?」


「不本意ながらそうでござる……」


「その手のゲームはドラ〇エⅢしかやったことねーからわかんねーが、ダンジョンって簡単に造れるもんなのか?」


 オレの土魔法も多少の魔力を使うが、それほど体に負担は感じねー。まさに絵本の中の魔法使いのように簡単に使うことができる。が、理を理解しねーと使えねーんだよ。


 たとえば知らねー金属は集められねーし、土をどう動かすか明確なビジョンがねーと上手く動いてくれねーとかな。


「魔力があれば、簡単でごさる」


「……つまり、その魔力が問題ってことか?」


「そうでござる……」


 まあ、そんなこったろーよ。


「マスターの魔力は生命力を得て変換したもの。死して命とは矛盾しておりますが、マスターが生きるには生命力を摂取しなければならないのです」


「厄介この上ねーな」


 いや、生きるなら他の命を摂取するのは当然なことだし、そう言う摂理で生きてんだから悪いことじゃねー。が、人間至上主義なアホどもには通じねー摂理だ。人間の敵。悪としか見ねーだろう。なるほど、勇者に狙われもするわな。


「その摂取とやらは普通の、つーか人としての食事ではダメなのか?」


「ダメではござらんが、お茶を一口飲んだくらいの栄養にしかならんでござる。ダンジョン内で頂かないと栄養にならんでござる。ちなみに、人間一人の生命力でちょっとした家を建てられるくらいの魔力を得られるでごさる」


 それが多いのか少ねーのかはわからんが、食べるよりダンジョン内補食の方が効率がイイってのは理解したよ。


「そんで、部下製作能力か。まさしくダンジョンマスターになるべくしてなったって感じだな……」


 この世界の神(?)に介入されたのは間違いねーが、八割以上はエリナの自業自得だな……。


「ベーさま。マスターのダンジョン製作能力は万能に近く、部下製作能力も高いです。ですが、全ては魔力があってこそ。生命力を得られなければマスターは非力です。現状を維持するのも困難です。未熟な我々ではマスターを守りきれません。我々は一度、風の勇者に破れ、この地に逃げて参りました。お願い致します。どうかマスターにお力をお貸しくださいませ!」


「……わかった。力を貸すよ……」


 ほんと、ノーと言えねー自分が憎いよ。

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