第98話 4ねばイイのに☆

 え──とです。少々お待ちください的な間がありましたが、なんとか場は鎮まり、双方、炬燵に入り茶を一服しております。


 え、騒動は? とのツッコミは全力でノーサンキュー。ただ、聖剣(釘バット)は没収されたとだけ語っておこう。チッ。


「あー、お茶がウメー」


 久しぶりに飲んだ緑茶は心に染みるぜ。あ、煎餅食いたくなった。


「……ベー。そろそろ現実に帰ってらっしゃい……」


 せっかく現実逃避してたのに、アリテラが無理矢理現実へと引き戻した。


 だがまあ、いつまでも逃げてても話は進まねーし、終わらねー。とっとと終わらして帰るか。やりたくねーけどよっ。


「──あんちゃん!」


 と、エレベーターからトータが飛び出してきた。


 よっぽど寂しかったのか、涙と鼻水を流しながら突進してくると、そのままの勢いでオレに抱き付いた。


「わぁあぁぁぁぁん!」


 今までにないくらいにスゴい勢いで泣き出すトータをよしよしと慰める。


 まあ、視界のすみで「ブラゾォー!」とか叫び悶える変態は全力で無視。4ねばイイのに☆


 しばらくして泣き疲れたのか、トータから力がなくなりコトンと言った感じで眠りについてしまったが、よほど寂しかったらしく服をつかんだままだった。


 引き剥がすのもなんだし、オレの力ならトータの体重などヌイグルミより軽い。なんで、抱いたまま眠らせてやった。


 ……ほんと、視界の隅に映る汚物、なんとかなんねーかな、畜生が……!


「で、その汚物を助けてくれってことだが、いったいなにから救えってんだ?」


 もしその性格ってんなら速攻で殲滅してやんぞ。


「……え、えーとですね、マスターを勇者から守って欲しいのです」


 はぁ? 勇者?


 意味がわからずバンベルを……見て表情なんてわからんのでねーちゃんらを見た。


「勇者なんていんのか?」


 まあ、ファンタジーな世界である。いても不思議じゃねーが、魔王が暴れてるって話も聞いてねーぞ。


「自称勇者から国が認めた勇者まで、結構いるわね。今一番有名なのは帝国の勇者で、深紅の勇者ダルバインね」


 いたんか、勇者。初耳だぜ……。


「つうことは、魔王もいんのか?」


「こちは自称がほとんどだけど、結構いるし、呼び名は違うけど、南の大陸には竜王と呼ばれる魔王がもっとも有名ね」


「竜王って魔王だったのか! ラーシュの国、メチャクチャ大変だったんだな?!」


 手紙には竜王軍が暴れて困ってるとは書いてあったが、まさか魔王と戦っていたとは夢にも思わんかったぜ……。


「……ち、ちなみに、その竜王はどうなったの?」


「ラーシュが倒したってよ」


 魔術師系ねーちゃんの問いに答えたら全員が沈黙してしまった。どったの?


「……あ、うん、そ、そーね。ベーの友達だもんね、不思議じゃない、かな……?」


 斥候系ねーちゃんが明るく声を出したが、なぜか最後は不安そうに疑問系になっていた。


「え、えーと、さ、ベー。その王子さまに、なにか竜王を倒す武器とかあげたの?」


「ああ。ねーちゃんたちに売った剣とけ──じゃなく、魔法の鎧、魔法の盾、投げナイフに各種薬草だな」


 そう答えるとまた全員が沈黙してしまった。


 しょうがないので急須からお茶を茶碗に注ぎ、懐かしい緑茶を堪能する。あーザイラおばちゃんの漬け物食いてー。


「……あ、あの、ベーさま。その武具は我々にも売って頂けるのでしょうか?」


「まあ、欲しいってんなら売らねーこともねーが、別にお前らに必要ねーだろう。勇者が攻めてくる訳じゃねーんだからよ」


 オレとしては視界の隅で悶える汚物を退治して欲しいが、ただ生きてるもんを嫌だから殺してくれとは頼めんだろう。勇者、暗殺者ってわけじゃねーだからよ。


「……あー、ベーくん。たぶん、だけど、この人……って言うか、こちらの方々、勇者に退治される存在かもよ……」


 と、騎士系ねーちゃん。


「はぁ? なんで? あ、魔物だからか」


 珍妙すぎて魔物であることを忘れてたよ。


「あ、いや、そうじゃなくて、いや、そうなんだけど、たぶん、そこのお──じゃなく、彼女、リッチよ」


「リッチ? って、あの不死人のリッチか? でも、そこの汚物──じゃなくてこの変態、ダンジョンマスターって種族だってバンベルが言ってたぞ」


「え? 言い直す意味がわからんでござる!」


 なんか聞こえた人は、耳鼻科にいくか精神科にいってください。きっとなにかの病気です。


「……ま、まあ、そこら辺の線引きは曖昧だし、ダンジョンマスターなるものがなんなのかわからないけど、彼女の気配、まったく感じられないわ」


「それに、魔力に陰を帯びている。これは、不死系の魔物の特徴で、赤い瞳はリッチの証しよ」


「しかもこの魔力からして王級だわ。たぶん、この腕輪をしてなかったら発狂してるか命を吸いとられてるわ」


「そーなん?」


 バンベルに問うた。


「確かに、マスターはリッチでありダンジョンマスターでもあります。これは、たんに想像なのですが、誰かに干渉されたからとわたしは見ています」


 その言い方に、神(?)と邂逅したときのことを思い出した。


 ──強い力だとこちらの神に介入されるかもよ。


 確か、そんなことを言っていた気がする。


「あー、ねーちゃんら。ワリーがそこの変態───じゃなくて、そこの汚物と腹を割って話してーから席を外してくれるか?」


「──言い直す意味がわからんでござるよ!」


 黙れ、この腐死人がっ!!

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