第97話 聖剣(釘バット)
一時館なるマンションに入ると、一階部はエントランスホールとなっており、正面にエレベーターがあり、右手に郵便受け(どっからくんだよ! 誰が持ってくんだよ! 意味わからんわ!)があり、左手には受け付け窓(?)があり、見える限り管理人室っぽい内装だった。
「あら、バンベルさん。お帰りなさい」
と、受け付け窓から黒髪の東洋系美女が顔を出した。
上半身(黄色いエプロンを装着してる)しか見えないが、豊満なお胸さまは女だと主張してる。が、イン子の例がある。女に見えても女じゃない可能性があるので油断は禁物だ。
「女もいんだな」
カマをかけてみる。
「はい。マスターが管理人は女でないとと言うもので」
思わず心の中で『わかってんじゃねーか』と言ってしまった自分が憎いぃ……。
「お客さまですか?」
「はい。マスターにお会いさせたくてお越しいただきました。マスターに変わりはありませんでしたか?」
「ええ。まったくです」
なにやら呆れ顔で肩を竦める黒髪のお胸さま。なかなかエエ光景や~。
「──ふげっ!」
突然、頭に衝撃が生まれた。
なんなんだと振り返ると、アリテラが手刀を構えながらエエ笑顔を見せていた。なんなのいったい!?
「なにすんだよいきなり?」
痛くはねーが、今の衝撃からして本気の一撃だったぞ!
「なんとなく?」
エエ笑顔のまま首を傾げるアリテラさん。ほんと、なんなのさっ?!
「ガンバレ」
「ガンバレ」
「ガンバレ」
なんの応援三重奏だよ! なにをがんばんだよ! 意味わかんねーけど、股間がキュッとするから止めろや!
「ベーさま」
「あ、ワリーな、何度も何度も。で、入んのになんか許可がいんのか?」
黒髪のお胸さまに目を向けた。他意はありませんぜ、ダンナ。
「いえ、必要ありません。キョーコさんはここの門番。無断で侵入する者を排除するのが役目。マスターかわたしが認めれば問題ありません」
あらやだ奥さん。突っ込みはしませんわよ。ウフフ。
「あのねーちゃんは、なんの種族なんだ? まあ、無理には答えんでもイイがよ」
「キョーコさんはマスターが創りしホムンクルスです」
「ホ、ホムンクルスですって!?」
魔術師系ねーちゃんがびっくりして声をあらげた。
「ホムンクルスって、確か人工生命体だったよな?」
「正確には人工魔導生命体よ。まさか伝説のホムンクルスがいるとは……凄い錬金術師のようね、ここの主は……」
まあ、ある意味その評価は正しいんだろうが、オレは嫌な評価(予感)しか出てこねーよ。
バンベルに促され、開かれたエレベーターへ入った。
ねーちゃんらは未知なものに動揺しているようだが、平然としているオレを見て、大丈夫と感じたのか、不用意な動きはしなかった。
エレベーターの表示が五階を表す。
もはや四階建てのマンションが実は五階建てだろうと十階建てだろうと驚きはしない。『あ、そっ』でスルーである。
チーンとベルが鳴り、扉が開かれる。
現れたのは通路ではなく、薄暗い大部屋だった。
広さはだいたいテニスコート一面分くらい。なにかが、いや、薄い本が天上まで積み重ねられていたり、人形……と言うよりはフィギアと称した方がしっくりくるものが壁側のケース棚にぎっしりと飾られ、ところどころに抱き枕(美少年なアニメキャラが描かれている)が転がっていた。
大部屋の真ん中には長方形の炬燵と座椅子があり、テーブルの上にはノートパソコンのようなものが鎮座していた。
「……なかなかの散らかりようだな……」
ゴミ屋敷ほどではないが、前世のオレの部屋より酷い状況だな……。
「申し訳ありません。マスターは部屋をいじられるのを嫌うもので……」
「構わんさ。人それぞれの拘りがあるからな」
オレもどちらかと言えば散らかっている方が落ち着くタイプだしな。まあ、片付け上手なサプルちゃんはそれを許してはくれんがな。
「んで、そのマスターとやらはどこにいんだ?」
見える範囲にはそれらしいモンは見当たらんが? 便所にでもいってんのか?
「少々お待ちを」
と言ってバンベル(スライム形体のままね)が部屋の中へと入っていき、奇妙──じゃなくて器用に床のものを避けながらオレから見て右斜め方向に進んでいった。
その先には布団がもっこりと山積みとなっていた。
「マスター。隠れてないで出て来てください」
山積みの布団がビックと動いた。
「……いないって言って……」
中から女の声が発せられた。
「いるじゃん……」
ダメだよ、斥候系ねーちゃん。そこはスルーするのが人としての優しさだよ。
なにか、ため息を吐いたような感じの仕草をすると、山積みの布団に近づき、なにやら囁いた。
「──なんですとっ!」
布団が撥ね飛ばされ、ジャージにモコモコのどてらを羽織った、クルクルメガネなきょぬーなねーちゃんが現れた。
「──ぬをををっ!! ショタキタァーーーーッ!!」
奇声をあげたきょぬーなねーちゃんがヨダレを滴らせながらこちらへと突進してくる。
慌てず騒がずポケットから聖剣(釘バット)を静かに抜いた。
「アハハ。死んで☆」
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