第96話 突っ込みてー!

 ダンジョンとマンションって似てるよねっ。


 ………………。


 …………。


 ……。


 ──いや、そうだけどっ、似てるけどっ、なんか違うくね? いや、まったく違うわ、ボケが!


 それともオレの聞き違いか? ダンジョンじゃなくマンションだったのか? マンションマスターなら納得──しねーよ! できねーわ! なんだよマンションマスターって? なんかの御当地検定的なもんなのか? 意味不明だわ、こん畜生がっ!


 ほんと、なんなの? なんだって言うの? ボケてんの? おちょくっての? 死ぬの? いやもう死んでよ。オレの前から消えてよ。これ以上、オレのスローなライフを賑やかにしないでよぉっ……。


「──ちょ、ベー! どうしたの!?」


「ベーになにをしたの!?」


「い、いえ、わたしはなにも致しておりません!」


 なんかねーちゃんらが騒いでるが、今のオレにはどーでもイイ。いやもう、全てのことがどーでもイイよ……。


「ボク、おうちに帰る……」


 帰って寝るんだ。暖かくて気持ちイイ毛布にくるまって安らな夢を見るんだぁ。


「ちょっとベー、正気に戻りなさい!」


 もぉ、なんだよ。くすぐったいじゃないか。これから寝るんだから邪魔しないでよ。


「しょうがないわね! ギア!」


「──フギャッ!」


 なにか電気が走ったような痛みに体が捩れた。


「……な、なんだって言うだ、畜生が……」


 静電気が溜まってたもんに触ったのか?


「ベー」


 その声に意識を向けると、アリテラの顔が目の前にあった。なにやら不安そうにして?


「……なに……あれ? オレ、なにしてたんだっけ?」


 周りに目を向けると、ねーちゃんらやバンベル、美丈夫なオーガにイン子がオレを見ていた。


 あーそう言やぁ、バンベルのマスターとやらに会いにきたんだっけ。あまりのことに錯乱しちまったよーだ。


 バンベルに連れられてきたところは、村から北に約十キロいったところにある標高四百メートルくらいの山の中腹だった。


 中腹には岩の馬車一台分が入れそうな裂目があり、入ると奥に続くトンネルがあった。


 オレも土魔法でトンネルを掘ったもんだが、ここまで鮮やかなトンネルにするなんてもはや職人の域だぜ。灯りとかもイイ具合に配置されているし、気温も湿気もちょうどよく保たれている。


 だから気が付かなかった。疑問にも思わなかった。真っ直ぐ、百メートルも歩き、このマンションが目に入るまで、あれがダンジョンであることに……。


「ナメてんのかいっ!」


 まったくもって突っ込まずにはいられねーよ。


 クソがぁっ! どこまでもオレの精神(常識)を穿てば気が済むんだよ、この珍妙なイキモンどもはよぉぉぉっ!


「……ベ、ベー……」


 おっと、イカンイカン、また我を忘れちまったぜ。クールだ。クールになれオレ。越えられない壁(非常識)はねー。乗り越えろ、そして、飲み込め。いつだって非常識は常識に変わるもんなんだからな!


「あ、いや、ワリー。なんか驚きすぎて取り乱しちまった。けど、もう大丈夫だ」


 ああ、乗り越えて飲み込んだ。もう、なんでもこいやっ!


 落ち着いた(かどうかは聞かないのが優しさだからねっ)ところで、改めてマンションを見る。


 うん、マンションだね。紛れもなくマンションですよ。


 四階建ての、どこにでもある築三十年級のマンションで、前世の住んでた地域では家賃七万円くらいだろう。可もなく不可もないマンションと言ってイイだろう。この世界じゃなければな……。


「にしても不思議な建物ね~。どこの国の様式かしら?」


「この大陸じゃ見ないわね」


「旧文明の遺跡かしら?」


「それにしては新しいわ。まるでつい最近建ったみたいだよ」


 な、なんだろう。ねーちゃんらから驚きがまったく感じんのだが……。


「ね、ねーちゃんら、随分と冷静だな?」


 いくら冒険者として各地を回っているとは言え、これは常識外のことだよ。この世界で十年しか生きてないオレでもびっくりな出来事だよ。驚くでしょう。腰抜かすでしょう。なんでそんな冷静でいられんだよ。


「いや、君んちで慣れたし」


「ベーくんの交遊関係に驚いてたら切りがないわ」


「もうなにが出ても驚きはしないわよ」


「ほんと、類は友を呼ぶって本当ね」


 え? いや、それだとオレが原因になってない? オレ、前世の記憶があるだけで普通だよ。凡人だよ。スローライフな日々を願うただの村人だよ……。


「ベーさま」


 と、バンベルに呼ばれて気がつく。マスターに会いにきたんだっけな。


「あ、ワリー。で、そのマスターやらはどこにいんだ?」


 いやまあ、そのマンションにいんだろうけど、マンションってことは部屋がわかれているってことだよね。ってことは、どこかの一室にいるってことだ。それともこのマンションがダンジョンマスターなのか?


「マスターはご自分の部屋におります。こちらです」


 バンベルがそう言い、マンションへと入っていった。


「どうするの、ベー?」


「罠じゃないんだよね?」


「それはわからん。だが、このマ──じゃなくて、ダンジョンに入った時点で手遅れ。帰れねーなら進むまでさ。まあ、万全の用意してきたから問題ねーよ。それに、ねーちゃんらがさっき使った腕輪なら誰にも知られずに脱出できるよ。まあ、本格仕様じゃねぇが、魔力感知阻害機能があっから探知系や魔術的な罠には引っかからねー。だからヤバいと思ったら迷わず逃げろよ」


「ベーも逃げるんでしょう?」


 アリテラが不安そうな目を向けてきた。


「当然だろう。ボヤボヤしてたら置いてくからな」


 不敵に笑って見せた。


 ま、必要がなければ逃げないがな。


「んじゃ、お邪魔しますか」


 マンション──『一時館』へと入った。


 ほんと、いろいろ突っ込みてーな、こん畜生が!

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