第95話 仲良くするのが一番
次の日、いつものように朝の日課と仕事を済まし、サプルの旨い朝食を食ったら伐り場へと向かった。
「ん?」
なにやら基地(土蔵)の前に水色のぷよぷよしたものが揺れていた。
「……随分と早いんだな。待たせたか?」
なんと表現してイイかわからない感情が涌き出てきたが、あえて無視してバンベルに話しかけた。
「いえ、大丈夫です」
表情はまったくもってわからんが、声音から相当待ったことが感じられた。
「もしかして、昨日から待ってたのか?」
「……ベーさまには敵いませんな。はい、帰るのも手間なだけですからここで待たせて頂きました」
「そりゃ気が付かなくて悪かったな。春とは言え、夜はまだ寒いだろう。大丈夫なのか?」
「お気遣い、ありがとうございます。ですが、ご心配に及びません。この体は熱や寒さに強い上に睡眠を必要としませんので」
……スライム、どんだけ高性能なイキモンなんだよ……。
「そ、そうか、うん、まあ、丈夫な体でなによりだな……」
ほんと、よーわからん生き物だ。
「んじゃまあ、約束通り解放するが、手綱はしっかり握ってくれよな。握れん場合はどうなっても知らんからな」
「はい、承知しております」
ぷるぷると震えるバンベル。もしかして、スライム流の頷きなのか、ソレは?
「基地解放」
その言葉と同時に結界解除の念を飛ばした。
不思議パワーを魔法か魔術と思わせるためのフェイクだ。友達とは言え、結界はオレの最重要能力だからな。
「──このクソがぁあぁぁぁっ!!」
解除とともに美丈夫なオーガがこちらへと突っ込んできた。元が赤いから激怒してんのかわからんな。
「止めなさい」
と、バンベルの言葉に美丈夫なオーガがピタリと停止し、ぷるぷる震えるバンベルを見て、青くなった。
ぷぷっ。赤なのに……じゃなくて! 美丈夫なオーガが一言で停止し、青くなるって、どんだけバンベルは強いんだよ?
魔力感知で魔力がバカ高いのはわかるし、高性能なのはわかるが、バンベルの強さがどれだけのものかはオレにはわからん。が、美丈夫なオーガの反応からして相当どころかドラゴンに匹敵するくらいの強さなのかもな……。
「チャーニーもです。ベーさまに手をあげることはわたしが許しません」
イン子を見れば、バカっぷりがどこかに消え、まるで鬼ババアを前にした子供のように震えていた。もうなんとでもしてくれだよ……。
「申し訳ありませんでした。この者たちには厳しく言っておきますのでご容赦を」
「命拾いしてなによりだな」
「……?」
オレの言葉になにかを感じ取ったのか、ぷるぷるが首を傾げたように見えた。あ、石投げないで!
「オレも謝っておくよ。一人でって話だったのに、余計なもんまで連れてきちまってよ」
肩を竦め、周りに目を向けた。
「まさか、そーゆー使われ方するとは思わんかったわ。さすがその年でC級になっただけはあるな」
と、美丈夫なオーガの横とバンベルの横の風景が歪み、『闇夜の光』が現れた。
「……よく、わかったわね」
呆れ半分警戒半分の顔で騎士系ねーちゃんが真っ先に口を開いた。
「ソレ作ったのオレだぜ。わからないわけねーだろう」
自由自在と言ってんだ、結界の存在がわかんなかったら操ることもできねーだろうがよ。
「まったく、非常識にもほどがあるわ」
「ほんと、呆れてなにも言えないよ」
魔術師系ねーちゃんと斥候系ねーちゃんが肩を竦め、珍妙なものを見るかのような目でオレを見ていた。失礼な!
「にしてもよくわかったな? ねーちゃんら、昨日帰ってこなかったのに」
朝もいなかったのに、なんでここにいんだよ?
「これだけ森が騒いでたら嫌でもわかるわよ。まるで黒竜が現れたくらいに魔物たちが怯えているんだもの」
アリテラの目がバンベルへと注がれていた。まるで親のかたきでも見るような目付きでな。
「説明してくれるかしら?」
騎士系ねーちゃんの目も鋭く、魔力に至っては臨戦態勢を突き破り、いつでも戦闘開始状態になっていた。
「説明って言われてもオレにもわからんよ。これからそれを聞きに行くんだからよ。だから、家で待っててくれや」
「そう言われて待っていると思うの?」
アリテラの返しにオレは肩を竦めて見せた。まったく思ってませんってな。
「バンベル。ワリーんだけど、ねーちゃんらも連れてってイイか? もちろん、あんたらの仲間に手は出させねーからよ」
「構いません。ベーさまがいる限り、四人増えたところで大差はありませんので」
「随分とオレを買ってくれてるが、オレは村人で戦いに関しては素人だぜ」
「わたしは執事ではありますが、マスターの剣であり、盾でもあります。守護者としての勘が言ってます。あなたとは絶対に戦うなと」
まあ、その勘は正しいのだろう。戦いは素人でも殺戮方法なら軽く二十は持ってんだからな。
「まあ、仲良くしようや」
「はい。仲良くさせていただきます」
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