第94話 ワカリマセーン
お互い、大切な者を交換することに了承する。
「ありがとうございます」
「別に感謝することはねーさ。こんな世界で生きてりゃ殺し合いなんて珍しくもねー。弱けりゃ死ぬ。運が悪けりゃ死ぬ。クソったれな世界だが、絶望しかねぇ地獄ってわけじゃねー。出会いは最悪だったが、その後も最悪でいる必要はねぇよ。仲良くやれんなら仲良くした方が生きやすいってもんだ」
まあ、理想を言えば、だがな。
「……やはり、ベーさましかおりません……」
はん? なんだい突然?
「ベーさまに、折り入ってお願いしたいことがあります」
なにやら真剣な表情を見せる。どこまでも器用だな、ほんと。
「………」
声には出さず、目で先を促した。
「ベーさまは、ダンジョンをご存じでしょうか?」
「まあ、冒険譚を聞くのが趣味だからあるってのは知ってるが、よくは知らねーぞ」
なにかの古代遺跡や古の魔導師の研究所、はたまた魔神を封印した地とかに魔物が住み着いたところをダンジョンと呼ぶ、ってぐらいだ。
「我らがマスターは、ダンジョンマスターと呼ばれる存在であります」
はぁ? ダンジョンマスター? なんだそりゃ?
「……ワ、ワリー、それがどんなもんかまったくわかんねーんだが……」
ダンジョンの主ヌシとか管理者的なもんか?
「簡単に言ってしまえば種族の名です」
「……種族? ダンジョンマスターが種族? って、イキモンなのか?」
なんだ、それ? さっぱりわからがな。
「どう例えていいかわかりませんが、マスターの説明によると非有機生命体であり、ゴーレムに近いとのことです」
まったくもってさっぱりワカリマセーン。
「申し訳ありません。実のところ我々、いえ、マスター自身も良くわかっていないのです。ですが、人で言うところの体がダンジョンであり、生命エネルギーを糧に生きていることは確かなのです」
……なんつーか、珍妙なもんを従えるヤツは更に珍妙なイキモンつうこと、なのか……?
「ま、まあ、イイや、その辺のことは。その、ダンジョンマスターがなんだって言うんだ?」
「どうか、我らがマスターをお救いください」
と、頭を下げられてもこちらは『はぁ?』である。これで理解できるヤツがいるならそいつは変態だ。
「……な、なんか意味不明すぎて頭が回らんのだが、なんでオレに言うんだ? 普通じゃねー力があんのは認めるが、オレはただの村人。ただのガキだぞ。まあ、腹へったからなんか食わしてくれってぐらいなら腹一杯食わしてやるが、その言い方からしてチンケなもんじゃねーんだろう? いったいなにを救えって言うんだ?」
んなもん勇者か英雄に言えよ。村人に言うなよ。
「無理を言っているのは承知しております。ですが、我々を殺さず、こうして向かい合い、語り合ってくださる方はいらっしゃいません」
「別に殺す必要がないから殺さなかっただけだし、しゃべれんならしゃべった方が話が早いと思ったからだ」
本能のままに行動する魔物じゃねーんだ、しゃべりましょうと言われたらしゃべるのが賢い人間のすること。人間の強みだ。
「そういう考えができる方だからこそ、お願いしているのです」
「友達の頼みを断るのはオレの主義に反するが、できねーことをできると言えるほど傲慢じゃねーぞ、オレは。それに、そんな少ねー言葉ではなんにもわからねーよ。意味わからんわ!」
大雑把にもほどがあんぞ、まったく。
「では一度、マスターにお会いください。マスターと話してください。お願い致します」
なんかスゲーメンドクセーことになりそうな予感がするが、ダチを見捨てるのも気分がよくねー。
「わかったよ。そのマスターに会ってやるよ」
「ありがとうございます! ベーさま!」
まったく、なにやってんだろうな、オレは……。
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