第63話 家族団欒
「あんちゃんお帰り」
いつの間にか家に帰っていたようだ。
アリテラからもらったカランコラがおもしろくて夢中になってしまったのだ。
「ったく。手間がかかるんだから!」
アリテラの怒りにアハハと笑って誤魔化す。
「アリテラ、あんた……」
「どうしたのよ!?」
「……あなたがフードを脱ぐなんてな……?」
なにやらねーちゃんたちが驚愕している。どったの?
「べ、別にいいでしょう。気分よ、気分」
あ、そー言やぁアリテラ、ずっとフード被ってたっけな。自然に話してたから忘れてたよ。
「アリテラっていつもフード被ってたのか?」
そう聞いたらなぜかスゴい勢いで振り返られ、目を大きくして凝視してきた。
「な、なんだい、いったい?」
あまりにもスゴい凝視なのでちょっとたじろいてしまった。
「アリテラ、ちょっとこっちいらっしゃい!」
と、三人に拘束されたアリテラが離れへと連行されていった。なんやねん?
「どうしたの、ねーちゃんたち?」
「なんだろうな、いったい?」
女の心はよーわからん。
「遅くなって悪かったな。アリテラにおもしろいもんもらっちまって夢中になっちまった」
「エヘヘ。あたしも鞄に夢中になっちった」
笑うサプルにオレも笑う。似た者兄妹だな、ほんと……。
「だから、今日はできあいものでイイかな?」
「ああ、構わんよ。どうせできあがったときのままなんだからな」
時間凍結してあるのでならんら問題にならんし、こーゆーときのためでもある。気にするなだ。
「鞄に入れ終わったのか?」
家ん中に入りながらサプルに聞いた。
「食料や調味料類は入れたんだけど、道具がなかなか決まらないんだ」
サプルにねだられ作った包丁の数十種類。数にして二百本以上。まな板三十枚。フライパン各種百個以上。鍋各種百個以上。その他もろもろ以下同文。そりゃ悩むわな……。
「まあ、別に急ぎじゃねーんだ、いろいろ入れてみて試していけばイイさ」
たんに憧れで欲しかっただけのもの。言わば着せ替え人形だ。入れ替えするのも楽しみ方だ。
「あんちゃんお帰り」
「お帰り、ベー」
居間にいたトータとオカンが笑顔で迎えてくれた。
「遅くなった、ワリー」
謝りながら自分の席へと腰を下ろした。
「山はどうだったい?」
「ああ、大量に採れたよ。それに、アリテラ──フードのねーちゃんから薬学の秘伝書もらって夢中になっちまったよ」
「相変わらずだね、あんたは。もうオババさまを追い越したんじゃないかい」
「まあ、知識は勝ってると思うが、調合の腕はまだまだ。オババの足下にも及ばねーよ」
知識だけでは調合はできない。調合はその日の気温、天候、材料の良し悪し、力加減、魔力加減、配合と、見極め加減で決まる。
数はこなしているが、できは中の下。オババのようになるにはまだ五十年ははえーよ。
「お、そーだ。アリテラからもらった秘伝書の中に湿布薬があったんだ。今度作るからオンじぃに渡してくれよ」
湿布薬 は前からあるのだが、エルフの湿布はファンタジー薬。記憶映像では六百才を超えたエルフのじーちゃん(見た目は二十代後半だったがな)がよく効くと喜んでたぜ。
「おや、そりゃオンじいさんも喜ぶよ。オンじいさん、あんたの薬にはいつも助かってるって言ってるよ」
「なに、これも薬師の勤め。礼なんかいらんよ」
まあ、薬師の称号はもらってるし、薬は調合しているが、正式な村の薬師て訳じゃねぇ。臨時って言うかオババのサブって言うか、山部落の緊急薬所的にやっているまでだ。
「トータはどうだった? ゴブリンは狩れたか?」
「ううん。ゴブリン出なかった。でも、山蜥蜴を六匹狩った」
「山蜥蜴六匹とはスゲーな。どうやって倒したんだ?」
前世のコモドドラゴンのようなデカさで、カメレオンのような長い舌を持っている。
すばしっこい上に皮膚が硬く、並みの剣では斬り裂くこともできない。冒険者ギルド討伐ランクCに当たる、別名、山の殺し屋と呼ばれている生き物だ。
「ニンジャ刀に雷を纏わせて倒した」
イヤイヤイヤイヤイヤイヤなにやってんのトータくんは?!
ニンジャ刀に雷を纏わす? いやそれって魔法剣って技じゃない! あんちゃん、そんなこと教えてないよね? 見せてもないよね? あ、いや、投げナイフの技か。って言うか、応用か、それは。いやほんと、急に伸びるとか反則だよ、トータくんよぉぉぉぉっ!
なんて心の動揺を必死に押さえつけ、あんちゃんの威厳を保ち続けた。
「そうか。なら、今度は纏わした雷を飛ばすようにしろ。そうしたら戦いの幅が広がるからな」
なんて上から目線で助言してやる。まあ、現実逃避とも言うがな……。
「お待たせ。夕食にしよう」
サプルが保存庫から持ってきたものを並べていく。
「ねーちゃんたちは?」
「なんか仲間で話してるみたいだな。まあ、一応離れにも料理は置いてあんだ、勝手に食うだろうさ」
昨日、こっちで食うのも離れで食うのも好きにしろとは言ってあるしな、好きにさせとけ。
「んじゃ、いただきます」
音頭を取って夕食を食い始める。
にしても、妹弟の才能が日に日に増していってると感じるのはオレの気のせいだろうか……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます