第62話 村人ですがなにか?
落ち着いた後、フードのねーちゃん──改め、アリテラと一緒に薬草採取に出た。
オレが薬師であることを告げたら自分の知る薬草の知識を伝授してくれることになったのだ。
なんでもアリテラのかーちゃん(エルフ)から薬学を教わったようで、冒険者の片手間に調合した薬を売っているそーな。
エルフって皆そうなのか? と聞いたら違うよーな。
エルフは排他的で保守的な種族と言われるだけあって、種族(氏族)内で完結している。なのでそれぞれに役割があり、なにかに長けているそーだ。
アリテラのかーちゃん──つーか、母親の家系が薬学を受け継ぎ、小さい頃に伝授されたと言うことだ(何年かけてだよ? とは怖くて聞けなかった)。
エルフの生態はともかくとして、エルフの薬学はスゲーとしか言いようがねーな。
雑草かと思ってた草が麻酔薬の材料だったり、よく見る苔が山蛭に吸われたときの血止め薬になるとか、金貨百枚に匹敵する知識を教えてくれたのだ。
それだけでもお腹一杯なのに、紙(聞くと和紙のようなもの)の生成方法も教えてくれたのだ。
ついでに紙の発祥はエルフであり、今流通している高級紙はエルフの国(どこにあるかはアリテラも知らないそーな)から輸入されているととか、裏情報も教えてくれた。
「紙作りは挫折したけど、もう一回挑戦してみるか」
アリテラが教えてくれた材料(木の種類と使用部位)もこの辺で手に入るし、結界術があれば生成できる。
「わたしとしては独学で作りだしたことに驚きたいんだけど」
「まあ、その辺は秘密だな。オレにも人に言えん秘密があるんでよ」
アリテラになら前世の記憶がありますと告げても言いんだが、万が一バレたときに巻き込むのも忍びない。これは信頼うんぬんではなく、自己防衛の観点から秘密にするのだ。
「そーね。親しき仲にも礼儀ありって言うしね」
こっちにも同じ諺あんだ。びっくりだよ。
「にしても覚えることがいっぱいあって頭から溢れそうだよ」
今世のこの体は、前世より性能はイイんだが、サプルやトータのように天才にはできてはいない。せいぜい頑張れば伸びるくらいの才能しかない。
オババに教わった文字や薬学を覚えるのだって時間はかかったし、何度も書き取り(木版に焼きごてでな)したし、夜遅くまで反復練習したものだ。
「なら、これをあげるわ」
と、腰のポーチから水色の丸い水晶を取り出し、オレに差し出した。
反射的に受け取り、いろんな角度から眺めた。
「……なんなんだ、コレ?」
「カランコラ。まあ、我が家の秘伝書ね」
なんてことをあっさり言うアリテラ。オレは思考停止だよ!
「……な、なんで、オレに……?」
やっと言葉が出た。
「ベーにもらって欲しいから」
なんともあっさりした答えが出てきた。
「自分の子どもに渡せよ、こーゆーもんは」
「渡すわ。わたしの秘伝書をね」
意味がわからんが、アリテラが納得してんならありがたく頂くよ。
「ありがとな、アリテラ。大事にするよ」
「うん」
昨日からは想像できんほどの笑顔を見せた。よーわからんな、女の心は……。
「んで、どう使うんだ?」
たんなる水色の水晶玉にしか見えんのだが、なんかの記録媒体か?
「意識をカランコラに向けて『ラジニア』と唱えてみて」
言われてやってみたらまたも思考停止。いや、思考の中にたくさんの情報が流れてきて考えることができないのだ。
情報──と言うか、その場面の記録と言うか、前世のようなカメラを回してその場面を見ているかのような立体的映像が頭の中でチャンネルを変えるようにスゴい勢いで切り替わる。
「観たいものに集中して」
アリテラのアドバイスを受けて近くにあった映像に集中する。
その場面はなにかの葉を磨り潰している場面で、アリテラの母親がなにかをしゃべっていた。
って、エルフ語かよっ!
思わず突っ込んだら映像が消え、目の前にアリテラが現れてしまった。
「いや、エルフ語知ら……あ」
言葉途中で海の戦士からもらった自動翻訳の首輪をもらったことを思い出した。
人魚族の大魔導師が作った自動翻訳の首輪をしてたらどんな種族とも会話ができるとか言ってたっけ。
ズボンのポケット(異空間収納結界となっております。まあ、ポケットに入れられる大きさのものしか入れられないがな)から鍵の束を出した。
その中から一つ──オレの部屋にある金庫と繋がる鍵を選び出し、目の前の空間に突っ込み、右に半回転回した。
カチンと言う音がして目の前の空間──縦横三十センチの空間が金庫と繋がり、扉が開かれた。
中にはオレの宝物が詰まっている。
その中から自動翻訳の首輪を取り出し、首にかけてもう一度カランコラを発動させた。
──ビンゴ!
エルフ語が自動翻訳されて聞こえた。うん、魔法超便利ぃ~!
「……ベー、あなたって、本当に何者なの……」
村人ですがなにか?
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