第61話 お人好し大いに結構
まあなんだ、ちっと言いすぎたな……。
俯くフードのねーちゃんを連れて陽当たり山の頂上へと向かった。
頂上にはオレの秘密基地がある。
つっても、頂上までくるのはオレぐらい。能力がなければ辿り着けないから誰も知らねーだけだがな。
まあ、トータならこれるんだが、薬草採取にはまったく興味を示さないから頂上の秘密基地のことは知っててもこようとはしない。ここから見える景色はスゲー感動的なんだがな。
「……綺麗……」
秘密基地の展望台から見える海と空に感嘆とするフードのねーちゃん。
「ふふ。このよさをわかってくれるヤツができて嬉しいよ」
この景色を一人占め、なんて寂しいことに満足するより分かち合えるヤツと見れる景色の方が何万倍も綺麗だとオレは思うね。
景色に見とれているねーちゃんをそのままに室内へと入り、暖炉に薪をくべて魔法で火をつける。
秘密基地とは言え、オレに妥協はねー(諦めはあるがな)。なので下の家とかわらない設備を揃えている。
もちろん、食糧にも手抜かりはねーぜ。軽く一年は籠城できるくらいの蓄えをしてあるし、足りなきゃ引き出せる仕組みを整えてあるから問題なしだぜっ。
湯を沸かし、ハーブティーを淹れる。
サプルにはまったく敵わねーが、茶を淹れるくらいならオレも人並みにはできるし、コーヒー(モドキ)を淹れるならサプル並みには上手いぜ。
あと、食糧庫から野菜だけシチューとナン、そして、羊乳アイス木苺掛けを出した。
フードのねーちゃん、エルフの血が濃いのか、肉を一切食べなかった。
まあ、誰にも好き嫌いはあるし、種族的に食えねぇもんもある。エルフが良い例で、野菜だけしか食わねーときてる。
まあ、エルフ全般が食わえねぇって訳じゃないらしく、狩人してるヤツは山の恵みとして食うらしい(狩人のエルフ談)ぜ。
「ねーちゃん。いつまでも見ていたい気持ちはわかるが、昼食を食べろや。人だろうがなんだろうが生きてりゃ腹は減る。食えるときに食うのが冒険者なんだろう?」
展望室にあるテーブルに料理を並べる。
「……ありがとう……」
ちゃんと礼を言えるねーちゃんに頬が緩んでしまった。
「なに?」
「いや、別に世界の破滅を狙ってるんじゃねーんだなと思ってな。安心したよ」
「?」
「自分の境遇に不満があるヤツはだいたい世界のせいにして他人を恨むからな」
前世のオレがそうだった。
「まあ、その分自分に向いちまったが、それなら気持ち一つだ。自分の心さえ変えられたら世界は一変できるしな」
まあ、それが難しいんだろうと言われたらその通りなんだが、世界(常識)を変えるよりは簡単だろう。長い年月積み重ねられたもんはよほどのことがないと崩れねぇし、崩れたとしても自分の望んだ世界(常識)になるとは限らねー。そんなメンドーなことやるヤツの気がしれねーよ。
「それより早く食いな。冷めっちまうぞ」
体は完全な冒険者らしく、出された料理を全て平らげてしまった。ほっそいのによく入るっこった。
スプーンをテーブルに置いたところでハーブティーをカップに注ぎ、ねーちゃんへと渡す。
「……美味しい……」
「そりゃなによりだ」
自然と笑みが溢れてしまう。
なんでもそうだが自分の作ったもんを称賛されたら嬉しいもんだな。
「……あなたはどうしてそこまで優しくしてくれるの?」
「うん? 別に優しくしてるわけじゃねーよ。したいからしてるまでさ」
「……………」
「誰だって嫌いなヤツはいる。オレだってゲスは嫌いだ。死ねばイイのにって思ってる。だが、そうじゃなけりゃあ普通に相手するよ。種族関係なしに、な」
「種族に偏見はないの?」
「ねーな。まあ、習慣に違いはあるが、だいたい似たよーなもんだ。小さい世界で自分の価値観しか信じねーアホ。自分の種族が一番と勘違いするバカ。強さに溺れるクズ。他人を利用するゲス。ねーちゃんが会ったことがある種族で、『なにこの立派な種族?』なんてのいたか?」
「いない」
即行で答えるフードのねーちゃん。余程酷い目にあってきたんだな。
「だろう。なら、種族は関係ねーよ。じゃあ、なにが信じられんだってったら、そいつがもつ性根だけだろうが」
そりゃ、目に見えんものを見ろってのも暴論だし、人生経験の浅いヤツには無理だが、そんなのオレの理論(主義)じゃねぇ。オレはオレの経験と勘、そして、相手とのやり取りで判断する。
展望室から出て外から握り拳大の石を持ってくる。
それをねーちゃんの鼻先に向け、握り潰した。
「ねーちゃんは、オレをバケモノと呼ぶかい?」
驚くねーちゃんにそう尋ねる。
「……いいえ、呼ばないわ。呼びそうにはなったけど……」
「アハハ。正直なねーちゃんだ。まあ、言われたところでオレは気にしねーがな。バケモノ? ああ、バケモノでイイさ。そんなこと言うクソに人と見られても嬉しくねーし、同類と見なされるなんて虫酸が走る。そんなバケモノでも仲良くしてくれるヤツはたくさんいるし、人の好意にちゃんと「ありがとう」って言ってくれるヤツもいる。オレは、そんなヤツらが大好きだ」
それで裏切られたらオレに見る目がねーってこと。友達が一人減っただけだ。腐る理由にはなんねーよ。
「……お人好しね、あなたは……」
「だからこそ、ねーちゃんらと知り合える。お人好し? ああ、そうさ。オレは最強のお人好しだぜ!」
騙し陥れた出会いより、オレは信じて好きになった出会いの方が断然イイ。オレはそんな人生を歩むぜ。
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