第60話 生きてみてわかったこと

 昼食はナンに海鮮シチュー、温野菜、コロッケと、まあ、別段代わり映えのしない品揃えだったが、粗末な食事を強いられてきたねーちゃんたちにはご馳走のようで、美味しいを連発しながら食っていた。


 ちなみにフードのねーちゃんはいない。まだ腹が減ってないようで帰ってきてない。


「ねーちゃんら、午後はどうする?」


 食後の羊乳アイスハチミツかけを幸せそうに食するねーちゃんたちに尋ねた。


 販売はフードのねーちゃんが帰ってきてからってことになったよ。


「そーね、どうしようかしらね?」


 リーダーの騎士系ねーちゃんが二人に問う。


「あたしはのんびりしたいかも~」


「わたしは、本が読みたいわ。ベーくんの書庫、結構貴重なのが多いから」


 斥候系ねーちゃんと魔術師系ねーちゃんが即座に答えた。


「なら、わたしは……剣の稽古をするわ」


「まあ、好きなようにしてな。あ、風呂に入りたいときはサプルに言えば入れるからな」


 基本、サプルは家事担当。他所から応援がなければ家にいるのだ。


「オカン、なんか手伝うことはあるか? ねーなら山にいってくるが」


 まあ、ねーのはわかっているが、オカンを気遣うのも息子の役目。なくても聞くのが孝行である。


「大丈夫だよ。山にいってきな」


 わかったと言って山にいく準備をする。


 っても、物置から竹籠を出して背負うだけ。そして、山に向かうだけである。


「あんちゃん、どこの山にいくの?」


 ニンジャ刀を背負い、銀のナイフを腰に差したトータが音もなく現れ、唐突に聞いてきた。


 いつものことなので驚きもない。自然と声のした方へ振り向いた。


「陽当たり山から頂上に向かってあとはそんときの気分だな」


 薬草は決まった場所には生えてねーし、同じ場所にあったとしても保護の観点から一年は採らないようにしている。なので、毎回探しながら気ままに山を巡るのだ。


「昨日の場所にいってもイイ?」


「ああ。死なないていどに狩ってこい」


 スーパー幼児は一度した失敗は二度しない。余計な心配は無用である。それに、保険はニンジャ刀に仕掛けてあるから問題なしだ。


「うん、今度は失敗しない」


 ジャンピングしながら山を下っていくトータをしばし眺め、山へと登っていく。


 山の部落ではうちが端っこなので道はなく、木々に覆われている。


 開拓時代は、この山で木を切っていたのだが、人が多くなり、山の木を無計画に切っていたものだから山の下半分は禿げてしまい、このままではいかんと、八十年前くらいの村長がこの山で木を切ることを禁じ、向かいの山で切ることになったので結構、山菜やら薬草が繁っているのだ。


 まあ、他の山部落衆も採りに入るが、山菜が採れる限界が標高六百メートルくらいまでなので、それ以上は上がらない。


 だが、薬草が採れる限界はない。それどころか希少な薬草ほど高い場所にあり、頂上を目指した方が発見率が高いのだ。


 登る道(獣道な)すがら山菜を見つけたが、確認しただけで通りすぎた。


 オレの場合、空飛ぶ結界があるので遠くで採れるが、山部落衆のヤツらは仕事の合間に採るくらいの時間しかない。付き合いや兼ね合いを大切にするためにも近場のは採らないようにしてるのだよ。


 春の薬草は十六種類あり、陽当たり山では二種──腹痛止めの紫草と虫除けの材料となる虫殺し草が採れる。


「おっ、白目草があるじゃねぇか。こりゃ、幸先イイな」


 薬草ではなく毒草だが、この白目草、魔力回復薬の材料となり、一株最低でも銀貨三枚で買い取ってくる希少な草なのだ。


 周りを探せば結構な数の白目草が生えていた。


「っうか、生えすぎじゃねぇ?」


 自生地帯ではあるが、これまで生えていたことはねぇ。精々、三株がやっとだ。群生地と言ってもイイくらいに生えてるなんて異常としか言いようがねーぞ。


「まっ、いっか」


 ファンタジーな世界では法則なんてあってないようなもの(暴論ですがなにか?)。考えるな感じろだ。


 土魔法で根を痛めず掘り出し、結界で包み込んで竹籠に放り込んだ。


 四株採り、次の獲物を探しにいこうとして探知結界内に誰かが入ってきた。


 最大使用範囲内に薄い結界を幾百枚と張り、侵入者(生命体)が入ってくると破れるようになっており、その衝撃がオレに伝わる(魂にな)のだ。


 まあ、いつもやってるわけじゃなく、山菜や薬草を見つけるのに集中してしまうので用心のためにやってるのだ。


 侵入者は結界に気が付かずスピードを殺さずこっちに向かって来る。


 木々が邪魔をしているとは言え、オレの結界使用範囲は半径三十メートル。決して遠い距離ではないのに侵入者の姿がまったく視認できない。もう五メートル内に入ってるのにまだ姿が見えない。


 とは言え、魔力感知はそこそこあり、一度覚えた魔力反応は二年は忘れない(突っ込みはノーサンキュー)。


「……B級ってスゲーな。まったく気配を感じねーわ……」


 知り合いのエルフ(狩人)も一メートル内に入られてもまったくわかんなかったしな。


「……それでもわたしだとはわかるのね」


 木の後ろから姿を現すフードのねーちゃん。


「見方、感じ方は人それぞれ。ましてや種族が違えば千差万別。気にすんな、感じろだ」


「……皆があなたみたいだったらよかったのに……」


 悲しみが混ざった声音にオレはムっとした。


「オレはオレだ。世界に一人しかいねーんだ。他と一緒くたにすんじゃねーよ」


 別に特別な存在って言う訳じゃねぇし、悪口なんて気にしねーが、存在を否定されてまで黙ってるほど今世に腐っちゃいねーぞ。


「自分を否定するのはねーちゃんの勝手だが、オレの人生まで否定すんじゃねーよ。オレを決めるのはオレだ。他人じゃねー!」


 前世ではわからなかった。思いもしなかった。


 生きる? そんなのクソだと信じていた。


 だが、必死になって生きてみて、苦労して、涙して、笑って、やっとわかった。


 オレは今、幸せなんだとな……。

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