第58話 毎度あり

 いつもの朝の仕事と日課を済ませ、朝食を取ったあと、オレはトータとの約束を守るためにニンジャ刀を作っていた。


 トータは百まで数えられるが、足し算引き算はまだ教えてはいない。なので点数計算も無理だ。


 だが、スーパー幼児は当てた場所は完璧に覚えてたりする。


 その記憶能力を元に計算したら、なんと三百点を超えていた。


 思わず『なんでやねん!』と突っ込んでしまったが、よくよく考えたら相手は進化したゴブリン。スーパー幼児とは言え、まだ非力な五歳児では一殺はできない。四から五刺ししないと倒せなかったよーだ。


 まあ、想像とは違った結果にはなったが、約束は約束。可愛い弟のためにニンジャ刀を作っているのだ。


 ちなみにトータは目の前でできるのを待ってるよ。


 これもちなみにだが、我が家には鍛冶場がある。


 つっても一般的な鍛冶場じゃなく、魔術(サプルに頼んでる)で生み出した火(たぶん、千度は超えてると思う)を結界で封じ込め、任意のものしか通さない設定にしてある。


 まずは砂鉄を結合して四十センチくらいの鉄の棒を作る。それを結界の中に入れて熱し、赤々と燃えるニンジャ刀をハンマーで叩いていく。


 五トンを持っても平気な体は高速連打が可能であり、一分も叩けばそれなりの形になる。


 それを水──魔力を含んだ水に突っ込んで急速に冷やす。


 これを三度繰り返し、回転ヤスリで研いで行くと、破魔の効果があるニンジャ刀ができあがる。


 なんでやねん! と、突っ込まれたら教えよう。旅の鍛冶師(ドワーフのおっちゃん)に教えてもらったのだよ。


 まあ、こんなことしなくても普通に土魔法で作れるんだが、鍛冶スキルを錆び付かせるのももったいないので、こうして腕と勘を鍛えているのだ。


 柄を毛長羊の毛で巻きあげていき、土魔法と結界炉で薄く素焼きした陶器の鞘に灰色狼の革を巻きつけて完成。ほらと、トータに渡した。


 輝かんばかりの笑顔でニンジャ刀を受け取ると、鞘から抜いて銀色に輝く刀身を見詰めていた。


「……ベーくんは、武器まで作れるのね……」


 トータの後ろで見ていた騎士系ねーちゃんが感嘆と呟いた。


 オレの提案を受け入れ、一月はこの村で活動することに決めたようだ。


 つっても、三日は休むそうで、オレの鍛冶に興味を持った騎士系ねーちゃんとフードのねーちゃんが見学していたのだ。


 ちなみに魔術師のねーちゃんはサプルに魔術を教え、斥候系ねーちゃんは冒険者ギルド(支部)に報告と活動申請をしにいってるよ。


「趣味みたいなもんだがな」


 さすがに本職には負けるし、できは二流品だ。


「破魔の効果がある剣を趣味で作る鍛冶師はいないわよ」


 と、フードのねーちゃんからの突っ込みを受けた。


「まあ、趣味っても生活の糧だからな、売れるもん作らなきゃ誰も買ってはくれんよ」


 二流のできとは言え、新米冒険者にしたら喉から手が出るくらいの品であり、銀貨六枚と銅貨三枚。約七万円と格安ときている。隊商相手の商売では人気筋の商品だぜい。


「一番儲かるのはねーちゃんたちのような冒険者相手の商売だからな、付加価値は大切だぜ」


「それって、わたしたちにも売ってくれるってことかしら?」


「売ってくれって言うのなら売るさ。街と違って村で売っても税金はかかんねーし、商業ギルドに文句も言われんしな」


 村の税は麦に干物。たまに薪。村内で流通する品は無税な上に商業ギルドを通さなくても問題ねー。


 そんな細かいことしてたら領主の仕事は膨大になる。商業ギルドも一々村に支部を作らなければならんし、人を置かなければならん。とてもじゃないが国全てをカバーできるほどの力(人材と資金)はねーよ。


「なんか欲しいのかい? まあ、武器屋じゃねーから品数はそんなにねーがよ」


 趣味であり内職であり、作れるものしか作ってねぇ。そんな期待の目で見られても困るぜ。


「ぜひ、売って欲しいわ!」


「そりゃ毎度あり。つっても、もうちょっと待ってくれ。もう一つ作らんといかんからな」


 妹と弟を平等に愛するのも、これでなかなか大変なんだよ。

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