第57話 渡りの冒険者
バーベキューのもてなしはねーちゃんたちに好評だった。
冒険者をやるくらいだから食べっぷりも男に負けてねーし、オークの肉でもなんの躊躇いもなく食っていた。
ただ、フードのねーちゃんは、菜食主義者なのか、野菜しか食わなかったな。
「あー美味しかった! まさかオークの肉があんなに美味しいとは思わなかったよ」
「そうね。あと、貝や海老も美味しかったわ」
「わたしは、ソーセージが一番美味しかった!」
「……焼いた野菜もなかなかだったわ……」
フードのねーちゃんの声、やっと聞いたよ。
「喜んでもらえてなによりだよ。ねーちゃんたち、果実酒はイケる方か?」
そう尋ねると、笑顔で大好きと返された。
この世界(この地域では、だが)果実酒は一般的に普及しており、女性には人気があるのだ。
「これも美味しいわね。リコの実かしら?」
野苺のようなもので、そのまま食べてよし、ジャムにしてよし、酒にして良しと、新緑の季節になる、この辺に生息する人気の果実(この時代は果実と野菜の区別が曖昧なんだよ)だ。
「ああ。この辺じゃよく採れてな、女衆に人気があって家々で作るんだよ」
おかんも好きで女子会(?)で飲んでるそーだ。
「ほんと、いいところね」
「家よし。食事よし。お風呂もあればフカフカのベッドもある。こんな贅沢、貴族でもしてないわ」
「フフ。ここに住みたいくらいだわ」
「……………」
フードのねーちゃんがスゴく同意してるようで、スゴく頷いている。
「まあ、いたいのなら好きなだけいればイイさ。こっちとしてもねーちゃんたちの冒険譚を聴けるしな、損はねーよ」
会長さんらに保存食を渡したが、まだまだあるし、増えていく毎日である。四人増えたくらいじゃ、うちの食事情は揺るぎもしねーよ。
「とても魅力的な誘いだけど、わたしたちは冒険者。まだまだ冒険をしたいわ」
「好きでなった冒険者。まだ引退はしたくないわね」
「そうね。引退後にまた誘ってちょうだい」
「……………」
「まあ、いつでもイイさ。そんときは歓迎するよ」
それだけたくさんの冒険譚を聴けるってもの。先の楽しみができたってもんだ。
「そー言やぁ、ねーちゃんたちって、どこを拠点にしてんだ?」
C級以上の冒険者は自由人(と言う階級を取得できるのだ)だが、基本、冒険者は一つの街を拠点とし、その近辺で起こる依頼を受けているのだ。
「ああ、わたしたちは渡りの冒険者よ」
「そりゃ珍しいな」
いないことはないし、B級以上はだいたい渡りだ。だが、C級では珍しいことだ。
B級以上は人間止めたようなヤツらばかりで、難易度の高い依頼を受けており、一つの街どころか一つの国には収まらない。依頼に寄っては年単位のもあるくらいだ。
それに、B級以上は強さだけではなく信頼度や知名度、そしてなにより冒険者ギルドに貢献してなければなることはできないのだ。
「そうね、珍しいわね」
ただの十歳のガキならわからねーだろうが、前世と今世を経験していればわかる。なにか事情があるセリフであり、表情であることに。なのでスルーするのが礼儀である。
「まあ、急ぐ旅じゃなければ一月くらいいたらイイさ。この村にも冒険者ギルドはあるし、ちょっと行けば魔物もいる。採取依頼もある。最近じゃゴブリンがよく出るし、腕を磨くのもイイんじゃねーか? それに、一月後には隊商も通る。そうなりゃ、臨時の護衛依頼も出る。そんときに出れば無駄もねーだろう。まっ、決めるのはねーちゃんたちだし、強制はしねぇよ。それより、ねーちゃんたちの冒険譚を聴かせてくれ」
それが一番の目的であり、泊まる代価である。まずは払ってもらってからだ。
果実酒をグラスに注ぎ、ねーちゃんたちに配った。
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