第56話 才能開花するにもほどがあるよ

 帰りの道で昼食を取り、カラナ鳥(鶏くらいの山鳥で味はほどほどだが、矢の風切り羽にはちょうどイイのだ)を六羽仕留めて帰る頃には、もう夕方になっていた。


「結構遅くなったな」


「うん」


 トータの熱(やる気)も落ち着いたようで、いつものように無口になっていた。


「あ、あんちゃん、トータ、お帰り」


 庭でなにかをしていたサプルがオレたちに気がつき笑顔で迎えてくれた。


 ほんと、できた妹である。


「おう、ただいま。なにしてたんだ?」


 ねーちゃんたちは少し離れた場所──ベンチに座りながらお茶とクッキーを食っていた。もちろん、フードのねーちゃんもいるぞ。


「サライラねーちゃんに魔術を教わってたんだ! あんちゃん、あたし、火の矢を撃ち出せるようになったんだよっ!」


 サプルが指差す方向を見れば、炭化したものが山積みになっていた。


 オレの記憶が正しいのなら木で作った標的人形(投げナイフ用)だろう。更に、あの標的人形は堅い木で作ったものだ。それが炭になるってどーゆーこと?


「そ、そーか。そりゃスゴいな……」


 取り敢えず誉めておく。ちょっと心の整理をしたいから。


「えへへ。サライラねーちゃんの教えが上手だからだよ」


 そのサライラねーちゃん(魔術師のほうな)を見れば複雑そうな笑みを見せていた。


 まあ、サプルの天才っぷりに戸惑ってんだろう。無理もないさ。


「ワリーな、ねーちゃんたち。手間取らせて」


「い、いや、わたしたちは、大したことは教えてないんだけどね……」


「ええ。ほとんどその子の力だわ」


「まあ、自己流だが、魔力操作や発動はみっちり教えたからな、切っ掛けさえわかればあとは感覚でやれるんだよ、サプルは」


 魔術に関してはトータよりサプルの方が才能があり、センスは飛び抜けて冴えているのだ。


 十年に一人どころか百年に一人の天才である。教えれば教えるほどに成長していくことだろーよ。


「んで、どうやって撃ち出すんだ?」


 こーやるの、とばかりに魔力で弓を具現化し、火の矢を生み出した。


 いやいやいやいやいや、なにしちゃってんのサプルちゃん。魔力で弓を具現化とかマジありえないよ! 発想うんぬんより具現化能力なんてあったのかよ!? あんちゃん、今の今までわかんなかったよっ! ほんと、なんなのその才能は? 才能開花するにもほどがあるよ!


「……いや、そんな目で見られても、わたしの責任じゃないわ……」


 思わず魔術師のねーちゃんに『あんた、人の妹になにしてくれてんの』と言う目で見てしまったが、このねーちゃんに罪はない。サプルが異常なまでに天才なのだ。


「ワ、ワリー。つい、責任転嫁しちまったよ。いや、サプルは魔術の才能はスゴいのはわかってたんだが、まさか具現化能力まであるとは夢にも思わなくてな、認めようにもなかなか認められなかったんだ……」


 大丈夫。もう大丈夫だ。事実をちゃんと飲み込めた。うん、サプルちゃん、超天才。


「具現化能力? そんなものがあるの?」


 騎士系ねーちゃんが魔術師ねーちゃんに尋ねた。


「学園であるとは教わってはいたけど、本当にできる人に会ったのはこれが初めてよ」


 わたしも飲み込めず現実逃避してたわ、と、魔術師のねーちゃんがため息混じりに呟いた。


「サプル、その弓は出したり消したり自在なのか?」


 まあ、出したのは見てたが。


「うん。そーだよ」


 いやもう、君の純真な笑顔が眩しいよ……。


「じゃ、じゃあ、それは人前では使うな。使うときは人に見られないように出せ。どうしても人前で使うときは代々家に伝わる魔弓だと言うんだ。あと、その弓をもっと現実感のあるものに具現化する練習をしろ。そして、能力を持たせるんだ。まあ、その辺はおいおい教えてやるから」


「う、うん、わかった……」


 理解してない返事だが、兄の言葉には素直な妹である。これからじっくり教えて行けばイイさ。


「あ、トータ。別にお前はやらなくてもイイからな。お前の売りは速さと手数。そして、武器の扱いだ。無理してサプルを真似ることはない」


 横で唸りながらなにかを出そうとしている弟を戒めた。


 人にはできるできないがあり、向き不向きがある。努力は天才を凌駕すると信じるが、下手な方向に努力してせっかくの才能を潰してしまうかもしれん。今ある才能を伸ばし、できないことを底上げすればイイさ。


「んじゃ、練習終わりだ。今日の夕食はバーベキューにするぞ」


 サプルを促し、ねーちゃんたちには用意できるまで部屋でゆっくりしてるようにしてもらった。

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