第54話 成長なき進化は怖くはない

「さて、どうしたもんかな?」


 捕まえてみたものの、その後のことを考えてなかった。


 まあ、殺す気で相手したからトドメを刺しても構わないのだが、貧乏性な性格なので生きて捕まえた以上有効利用しないとなんだかもったいない気がして堪らないのだよな。


「食わないの?」


「いや、さすがにゴブリンは食いたくねーな」


 遊びでは狩りはしねーし、狩ったものは有効利用する質だが、人間に近いもんを食う根性はさすがにねぇよ(いやまあ、オークは旨いからさぁ)。なんか気味ワリーよ。


「まあ、その前に囲んでるモンを狩るとするか」


 イケメンなゴブリンに従っていただけあって、ただのゴブリンじゃねーようだ。


「にしても魔力の反応が強いな。並みの魔術師くらいにはあんじゃないか?」


 冒険者基準だからそうだとは断言できないが、これだけの魔力があるなら中級と名乗っても反論はないだろう。まあ、だからと言って実力も中級かと言ったらそーじゃねぇけどな。


 オレもそうだったが、力があるからと必ずしも使いこなせるとは限らない。


 五トンのものを持っても平気な体ってのは、簡単にものを壊せるし、人を殺せるだけの力──いや、凶器と言ってイイだろう。


 生まれたときから自我があったからよかったが、もしなかったらオレは忌み子、鬼子と恐れられ、下手したら捨てられていたかもしれない。


 だからと言って最初から制御できた訳じゃねぇ。床を壊したのは十や二十じゃきかねーし、寝ぼけてオカンの指を握り潰しそうになった。体が制御できる(ハイハイができる頃だな)まで休まる日はなかったぜ。


 ……ほんと、親とは偉大であり、尊敬すべき存在だぜ……。


「だがまあ、成長なき進化など恐れるに値せんわ」


 戦い慣れてるヤツの魔力は鋭いナイフのように感じ、乱れがない。


 それに比べて木々の陰にいる害獣ゴブリンどもの魔力の雑なこと。感情制御もできちゃいねー。どこにいるか手に取るようにわかるぞ。


「トータ。右にいる四匹は任せる」


 殺れるな? とは聞かねーし、お前ならできるとも言わねー。五歳とは言え、オレが鍛えたオレの弟である。狩りができると認めたから山にいかせてるのだ。


「わかった」


 オレの意図を理解しているかは謎だが、任せられたのが嬉しいらしく、満面な笑みを浮かべて返事した。


「んじゃ、殺れ!」


 合図とともに投げナイフを放った。


 躊躇している害獣ゴブリンなど動かぬ的と同じ。一匹二匹となんの苦労もなく殺していく。


 これじゃ練習にならねーなと思いながらも油断はしない。最後の一匹を確実に殺した──ところで思い出した。


「毒味役に捕まえるんだったっけ」


 ま、まあ、やっちまったもんはしょうがねー。撒き餌はいくらあっても困るもんじゃねぇしな、結果オーライだ。


「トータ、回収を頼む」


 収納鞄をトータに放り投げた。


「うん」


 任せ、オレは自爆したイケメンなゴブリンへと近寄り、生み出した結界を二つに分け、片方をイケメンなゴブリンの首筋にくっつけた。まあ、一応な。


「成長を止めた生き物に未来があるほどこの世界は甘くねーんだよ」

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