第53話 どんな進化論だよ

「あんちゃん!」


 トータの悲鳴のような呼びかけに反射的にその方向へと目を向けたが、トータの姿は見えない。


「トータ! どこだっ!」


 生憎とオレは村人。気配察知能力(危機察知能力はあります)などないに等しい。ましてや気配消しが得意なトータを山で見つけるなど無茶ゆーな、である。


 まあ、魔力察知能力はあるので魔術なり魔法なりを使っていればだいたいわかる(距離によるが)が、いたるところに魔力反応がありやがる。この感じからしてトータを包囲しようとしている感じだ。


「あんちゃん!」


 上から声がし、見れば木々を伝って移動してきたようだ。


 ……ほんと、これでまだ五歳なのだから天才ってやつは参るぜ……。


 身体能力と風の魔術で軽やかに空飛ぶ結界の上に着地する。


 空飛ぶ結界は認識(さすがに無色透明だと落ち着かんのだ)できるようにしてあるので着地できるのである。


「いったい、どうした?」


「変なヤツに襲われた」


 なぬ? こんな山に変質者が出ただと?


 なんてバカなことを考えていたら、トータを襲っただろう襲撃者らが現れた。


「………………」


 いやもう、なんと表現したらイイのだろう。言葉に詰まるぜ……。


「ほう、またガキか」


 言葉をしゃべりやがった。


 これが人間や獣人なら驚きもしなけりゃ、素直に受け入れられるんだが、身長二メートル弱。緑色の肌に騎士のような鎧を纏い、ファンタジーな剣を持ったイケメンが現れたとなれば驚いて当然だし、言葉を詰まらせるのも当然だ。だって、目の前に現れたイケメン、ゴブリンなんだもん……。


「また、おかしな魔術を使うガキだな」


「……変な進化をしたゴブリンに言われたくないな」


 ったく、どんな進化論だよ。


 これまでいろんな種族と交流してなければあと一時間は茫然としていたことだろう。マジ、異文化交流に感謝である。


「ほぉう、おれがゴブリンとわかるのか」


「それだけゴブリンの特長が残っていたら嫌でもわかるさ」


 さすがにイケメンに進化したのはわからんがな。


「クックックッ。おもしろいガキだ。で、お前はどうするんだ? 逃げるか? それとも殺されるか? ああ、捕まると言うのもあるぞ」


 その戯れ言に一気に冷静さを取り戻した。


「……なんだ雑魚か。びっくりさせんなよな……」


 ったく、イケメンなだけでいつもの害獣ゴブリンと変わらんじゃねぇか。


「ざ、雑魚だと?」


 こめかみに血管が浮かぶが、肌が緑色なので怒ったのかよーわからんな。


「図体がデカイ割に頭の中身はそのままだな。まあ、どんなに進化しようと、しょせんゴブリンはゴブリン。どこまでいっても雑魚だな」


 進化は確かに脅威だ。だが、そこに積み重ねられた経験もなければ蓄積された知識もない。ましてや未熟な精神では、なにを恐れろと言う。こんなのオーガを相手してるのとなんら変わらんじゃねーかよ。


「きっ、貴様っ!」


 単純バカな脳筋野郎にため息が漏れる。


「お前になにを言っても無駄だろうが、一応、忠告しておいてやる。お前ではオレには勝てない。殺ると言うのなら相手になるが、話し合いを求めるなら話し合いをしてやる。好きな方を選べ」


 うんまあ、無駄以外なんでもないのだが、こちらはインテリジェントな村人である。戦いなど野蛮なことはなるべく回避するのである。


「──ふざけるなっ!」


 ほんと、こっちのヤツは人間でも魔物でも沸点が低い者が多いから嫌になるぜ。


 怒りに我を忘れているようでまっすぐ突っ込んでくるイケメンゴブリン。


 指先で大地に呼び掛け、石の槍を生やした。


「──ちっ!」


 舌打ちすると石の槍を回避した。


 さすがトータを追い詰めるだけはある。オーガよりは戦い慣れてやがるぜ。


 まあ、それでもオレの敵ではないがな。


 こちとらオークやオーガと何度も戦ってる(オークは食用。オーガは撒き餌)し、三つの能力は把握している。石の槍はたんなるフェイント。お前の四方には結界(固くしたもの)が展開されている。


「結果、お前は自爆するんだよ。イケメンなゴブリンくん」


 地面に倒れる単純バカな脳筋くんにどや顔を見せつけた。


「あんちゃん、スゲー!!」


 フハハハ! 弟よ、もっとあんちゃんを誉め称えるがよい。

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