第52話 ファンタジー薬
山を歩く。
字面は綺麗で、爽やかに聞こえるが、実際の山を歩くと言うのは苦行でしかねー。
寒い地方の針葉樹林内を歩くならまだマシだが、この地方の広葉樹林地帯で山の傾斜はキツい。落葉が溜まり足場は悪い上に背の低い草木や倒木があるためにまともに歩けたものじゃない。
小動物系は論外だとして、野性の獣や魔物だって通り易い場所を選び、道を作って山で生きるのだ。
まあ、オレには自由自在に操れる結界使用能力があり、縦横無尽に動き回れるが、山は恵みの地。至るところに薬草やら野草やらキノコが実っている。これは、歩いてよく見ないと見つけられないのだ。
山歩きの得意なおじいに付き合い、いろいろ食えるものを教わったが、まだまだ経験不足な上に目が山の風景に慣れていない。よく見ないと発見できねーし、判別ができねーのだ。
ゴブリンを四匹倒してから二時間経つが、まったく遭遇できないでいた。
角猪との遭遇はできた(もちろん狩りました)のだが、それらしい形跡すら見つけることができなかった。
広い山でのこと。早々会える訳ではないと、山の恵み採取に切り替えたら、あらびっくり。傷によく効くハナラマ草の群生を発見してしまった。
このハナラマ草、まさにファンタジーな薬草で、飲んで良し。貼ってよしの薬であり、冒険者なら必ず持っている常備薬なのだ。
まあ、ハナラマ草単独では前世の薬同様効果が出るまで時間を要するが、これにバシナラ草と言う毒草とシアニトと言う木の実、魔法水を六・一・二・一の割合で混合し、六十度で煮ると、あら不思議。ハラキリですら一瞬で治してしまうファンタジー薬になってしまうのだ。
そんな薬の材料となるハナラマ草は、なかなか見つけるのが困難であり、山の奥、綺麗な水が涌き出るところにしか生息しないのだ。
冒険者ギルドの依頼板には必ず貼ってあり、一株銀貨二枚で引き取ってもらえる。
ざっと見、二百──いや、三百はあるだろうか、滅多にない群生地である。
結界で空中に道を作り、イイところを採取していると、どこからか爆発音が聞こえてきた。
火薬などまだ発明されていない世界(時代)。爆発と言えば魔術でしかあり得なく、こんな山の中で使うような術ではない。
「いったい、どこのバカだ?」
山火事にでもなったら自然鎮火しかない。それでなくてもこの地域は春の雨は少ないのだ、一旦火が回ったら二月は消えんぞ。
採取を一時中断し、爆発音がする方へと駆け出した。もちろん、空飛ぶ結界でな。
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