第51話 ゴブリンは山の幸

 ゴブリン。


 緑色の肌に醜い顔をした小さい人。どこにでも生息し、繁殖力が高く、非力な存在。


 ゴブリンを簡単に表現すればそんな感じだろうし、誰に聞いても反論するほどの違いはねー。


 目の前に現れた四匹のゴブリンもだいたいそんな感じだ。


 だが、このゴブリンと言う生き物は結構侮れない存在なのだ。


 繁殖力が高いと言うことは数が多いと言うことであり、弱いと言うことは肉食獣にとっては狩り易いと言うことだ。


 実際、灰色狼や大山猫がよく狩る獲物はゴブリンであり、山ではよくゴブリンの骨に遭遇する。


 そして、ゴブリンをよく食べると言うことは草食獣が増えると言うことであり、木や草、木の実などが多く食われると言うことだ。小さくて肉の少ない草食獣より大きくて弱いゴブリンの方が簡単に狩れるからな。


 ゴブリンは多くても少なくても山のバランスは崩れ、一度崩れたら復活するまで長い年月が掛かるのだ。


 まあ、これはそんなに心配することじゃねぇ。自然の調整力と人間の力でなんとかなる。


 草食獣が増えれば狩人や冒険者に因って駆逐されるし、ゴブリンが多ければ肉食獣、竜種が集まり、増えたらやはり冒険者に狩られて沈静化する。


 オレが一番危惧しているのは、ゴブリンの進化だ。


 そんなに一般的にはなってないが、ゴブリンの進化スピードは他の種族を圧倒しているし、とある学者の説では世界一危険な種であると説いていた。


 歴史的にも大暴走の半数以上はゴブリンが進化し、ゴブリンキングに因って引き起こされている。


 まあ、下手な鉄砲数打ちゃ当たるの理論なので大多数は食い殺されるなどして自然淘汰されるが、当たったときの威力は計り知れないものがある。


 ゴブリンキングに率いられたゴブリンは、人間の軍並みに強力になり、歴史書には五千を率いたゴブリンキングもいたと言うことだ。


 投げナイフを放ち、襲いかかってきたゴブリンAの額を撃ち抜いた。


 並みの冒険者なら素手でも勝てるくらいの身体能力であり、生命力である。装備も腰にボロキレを巻いて木の枝を持っただけ。マルチーズが向かってきたようなものだ。


 トータの腕力(投げナイフを投げる力な)でも瀕死を負わせることができるだろうよ。


 まあ、明らかにオーバーキルなのだが、オレがなにを使おうともオーバーキルは決定。手加減する方が難しいくらいだ。


 さらに投げナイフを放って残りを瞬殺する。


「やはり、動く標的の方が修行になるな」


 この世界に生まれて十年。生き物を殺すに躊躇いも忌避感もない。ましてや血の臭いなど羊糞より気にならない。


 だからと言って殺しには陶酔はしねーし、楽しいとも思わねー。必要だからやる。生きるためにやる。やるからには効率よく、確実に殺すように、だ。


 ゴブリンの死体を異空間結界の中に放り込む。


 そのまま放置してたら狼か山猫、下手したらオーガがやってくるし、死体は死体で肉食貝(五メートルくらいあり、結構旨いのだ)を招き寄せる撒き餌にゴブリン(サイズ的に)が一番適してるのだ。


「さて。次のゴブリンはどこかな?」


 オレにとったらゴブリンは山の幸。便利な生き物。大暴走、大いに歓迎である。

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