第49話 失敗もまた勉強
ねーちゃんたちの混乱も収まり、きゃいきゃいと風呂に入り出した。
斥候系ねーちゃんに一緒に入る? とか言われたが、はい、入ります! なんて言える性欲は持ち合わせてねーし、ひ──風呂場から殺気が──なんでもないです。はい。いや、オレ、紳士だからそんなことはしないのだ。
湯加減もよろしいようなので、山に入る準備をするべく武器庫へと向かった。
武器庫、とは言っても保存庫にある一室であり、内職したものを保管しておくための部屋なので、特に変わったギミックはない。
まあ、投げナイフを作る前は剣や槍、斧や特殊武器に熱中し、いろいろ作ったので武器庫と呼んでいるだけである。
「さて、なにを持っていくかな」
本来なら体一つあれば事足りるのだが、ゴブリン発生で冒険者がいるようなのでカモフラージュのために武装するのだ。
そもそも十才の子供は山に行かねーよ。との突っ込みはノーサンキュー。やらぬよりやる保険ってな、布の服で山にいく異常よりまともな装備をして山に行く異常の方がまだ人は飲み込めるものだ。
実際、トータも何度か冒険者パーティーと遭遇してるが、武装していたお陰でなんとか受け入れられたのだ。
まあ、この世界、常識外れのヤツが結構いるし、魔法魔術があるのでそれほど異端にはならないがな。
「山刀に投げナイフでいっか」
三つの能力を鍛えてきたのでオレには剣術も槍術、いや武術をやってこなかったので剣も槍も素人以下。たぶん、トータよりヘタクソだろう。まあ、特に悔しいと思うこともなければ上手くなりたいとも思わねー。オレはただの村人。ただの人間だ。
説得力ねーな。との突っ込みもノーサンキュー。オレは誰がなんと言おうと村人。キング・オブ・村人ととはオレのことだぜい。
布の服から自作の革鎧へと着替え、革の手袋に革の靴。時空間結界を使用した投げナイフ収納ポーチをベルトに装着。鉄製の山刀に食糧や薬、タオルを詰めたバックを背負う。
「やっぱ、動き難いな」
普段、布の服なので革鎧とか着ると、違和感がハンパない。今度、ザンバリーのおっちゃんに黒竜か白竜の毛でも刈ってきてもらってローブでも作るか。
おっちゃんが着ているドラゴンの毛で編んだ闘衣、スゲー動きやすそうだったんだよな。しかも防御力もハンパない。火や氷、雷にも強いときたもんだ。竜の毛で甚平とかイイかも。
「こりゃ、頼むしかないな」
いつくるかわからんおっちゃんを思いながら武器庫を後にした。
ねーちゃんたちはまだ風呂に入ってるよーで、きゃぴきゃぴ言いながらガールズトークに花を咲かせていた。
……冒険者とは言え、女は女だね~……。
まったく興味がないので右から左に流し、そのまま裏から家に入った。
「サプル、これから山にいってくるよ。昼は戻らんからねーちゃんたちを頼むな」
台所に立つサプルに声を掛けた。
「うん、わかった。あ、あんちゃん。ねーちゃんたちに魔術教えてもらってもイイかな?」
「まあ、ねーちゃんたちがイイって言えば、構わんよ」
別にオレに流派があるわけでもねーし、オレ以外の魔術を見ておくのもイイ勉強になるだろうさ。
「あ、ただ、どんな魔術でも否定はするな。オレが教えた魔術は普通とは違う。どちらかって言えば魔法に近い魔術だ。だから、ねーちゃんたちの魔術は一般的魔術として見て、取り入れるに価するなら取り入れろ。取り入れなくてもそーゆーもんがあると受け入れろ。それを活かすのも殺すのもサプル次第だ」
なんでも学ぶと言う意識がなければなんの実にもならない。勉強しなかった経験者が語るんだ、説得力はあるぜ。
「……んー、わかった」
わかってない返事だが、サプルはまだまだ八歳。失敗もまた勉強さ。
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