第48話 風呂(カルチャー)ショック

「ねーちゃんたち、今ここにいるってことは、野営したのか?」


 近隣の村から馬を使ったとしてもここまでくるには昼は過ぎる。どこかで野営でもしない限りは今の時間にくることはできないだろうさ。


「ええ。本当なら昨日の夕方には着けるはずだったのだけれど、ゴブリンの襲撃に三度もあってやむなく野営することになったのよ」


 またゴブリンか。本当に増えてんだな。


「それは大変だったな。じゃあ、汚れてんだろう。今、風呂を用意するよ」


 風呂、と言う言葉にねーちゃんたち(フードのねーちゃんもな)が驚いた。


「ふ、風呂って、ここは温泉が湧くの!?」


 ほぅ。温泉を知ってるとは結構広範囲に渡って活動しているよーだ。


 この辺りに火山はなく、相当深く掘らなければ温泉は出ない(千メートル掘ったが、出ないので諦めたよ)。北東に四百キロいった場所に温泉の街があると言う話は聞いている(ザンバリーのおっちゃん談)。


「いや、うちは薪風呂か魔術風呂だよ。今から用意する風呂は薪風呂だな。まあ、なにが違うと問われたら水を温める方法が違うだけなんだがな」


 効能のある薬草を入れた薬湯つーのもあるが、あれは独特の臭いがあるし、ちょっとばかり体に残る。疲れてんなら普通の沸かし湯で良いだろうよ。


「サプル。ねーちゃんたちを離れに案内してやんな。あ、そー言やぁ、離れは二人用だっけ」


 最近、くるのは一人か二人だったから四人用から二人用にリフォームしたんだった。


「気にしないで。これでも冒険者よ。雨風凌げれば馬小屋だって平気だわ」


 そりゃそーか。そんな軟弱なこと言ってたら冒険者は勤まらない。野営だってしてることだしな。それに、冷暖房完備で布団もある。地面に寝るよりは何百倍もマシだな。


「わかった。まあ、ベッドはデカいから二人ずつ寝れねーこともねぇしな、そっちで決めてくれ」


 あとをサプルに任せて風呂場へと向かった。


 毎日風呂に入ったあとは湯を抜くので湯船は空になっている。


 なので山からの湧き水を湯船に送るための樋を掛け、湯船に水を送る。


 溜まるまでに客用のタオル(毛長山羊製)を脱衣室に備えつけの棚から出し、厨房の冷蔵庫から瓶詰めの羊乳を脱衣室にある冷蔵庫に移した。


 そんなことをやっている間に水は湯船の半分くらいまで溜まった。


 風呂担当は七割トータ。二割サプル。一割オレがやっている。


 薪は三年使ってもまだ使い切れない量があるのだが、トータもサプルも魔術を覚えてからは薪など一切使わない。薪を使うのはオレだけなので薪は減るどころか増えていく一方なのである。


 久しぶりに竈に薪を放り投げ、火魔術で着火。イイ感じで燃えてきたら風呂場に戻った。


「あ、ワリーな。もうちょっと待ってくれや」


 脱衣室でなにやら惚けてるねーちゃんたち。安心して疲れが出てきたか?


「さっきの離れと言い、この風呂と言い、なんなのいったいっ!?」


 叫ぶ斥候系ねーちゃん。


「……ザンバリーさんが薦めるのも頷けるわ。王都の高級宿屋以上の設備だわ……」


 とは、魔術師系ねーちゃんだ。


 騎士系ねーちゃんはまだ唖然としている。


 フードのねーちゃんも驚いてるのはなんとなくわかるが、オレの視線に気がついてまた気配を無にした。


 風呂場に入り湯船を見ると、イイ感じに溜まっていた。


「ねーちゃんたち。湯が熱かったらこの樋で水を入れて調整してくれ。好きなだけ入ったらそこにタオルがあるから使ってくれ。元の服を着たくなかったらバスローブ──まあ、これだが、これに腕を通してくれ。で、湯上がりに喉が渇いたらそこの冷蔵庫に冷えた羊乳が入ってる。好きに飲んでくれや」


 そう説明するが、反応がない。


 まあ、こーゆー場面を何度も見ているので我を取り戻すまで待ってやる。


「……凄すぎるわ……」


 ようやく我を取り戻した騎士系ねーちゃんが呟いた。


「なんなのいったい! なんなのっ!」


「わたしたち、どこかの貴族の館にでもきたの?!」


 我を取り戻したようだが、まだ混乱中のようだ。


 まっ、風呂のない時代ではしょうがねーか……。

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