第47話 お客さん、いらっしゃい
集落から帰ってくると、家の前に見知らぬねーちゃんたちがいた。
まあ、格好からして冒険者なんだろうが、女四人組のパーティーなんて珍しいこった。
今世に魔法魔術があるとは言え、冒険者は男の仕事。女がいたとしても一パーティ──人だろうよ。
一攫千金を狙える職業だし、普通に生きてるよりは稼げるが、そんなのは一握り。キツい。汚い。危険のブラックに片足突っ込んだ職業である。だいたいの者は早々に見切って転職してるかあの世にいってるかだ。
どこの世界にも男勝りはいるし、よんどころない事情でなった者もいるだろうが、女の体でやるには才能と丈夫な体と鋼のような神経がなければ荒くれものの男たちの中では大成しない、どころか食い物にされて末はどこぞの妓館に売られることだろう。
オレも冒険者相手に商売してるからケチは言えないが、いや、前世で底辺にいたから言える。
冒険者など派遣社員より劣悪で、人として見られないブラックな職業である。どんなに落ちぶれようが絶対になりたくはない。
だからって、他人の人生を否定はしない。やりたいのならやればいいし、それぞれの才覚で高みを目指せばイイ。そんなヒストリーを語ってくれればオレはその人生を応援するよ。
「あ、あんちゃん、お帰り」
ねーちゃんたちを相手してたサプルがオレに気がつき、笑顔で迎えてくれた。
うん。兄で本当によかったと感じさせる笑顔だぜい。
……トータ、お前はオレがかわいがってやるから強く生きるんだぞ……。
「ただいま。客かい?」
ねーちゃんたちを見ながら尋ねた。
前世で枯れ果てた上に子供の体なので、ねーちゃんたちの色気は見えてもまったくもって反応しない。きょ──どこからか殺気が──あ、いや、うん。キレーなお姉さんってイイよねっ。
「君がベーくん?」
「まあ、愛称つーか、渾名つーか、皆からはそー呼ばれてるよ。で、ねーちゃんたちはなんだい?」
年の頃は二十歳過ぎ。フードを被っている一人は除いて三人は人族で、オレに声を掛けたねーちゃんは戦士系と言うよりは騎士系と言った方がしっくりくるほど気品と優雅さを持っていた。
他の二人は魔術師系と斥候系。フードのねーちゃんは、なんか知らんが無に近い。辛うじて"いる"ってわかるくらい存在感がないのだ。
……前世と今世を生きたオレの勘が言っている。このねーちゃんはハンパなく強いと……。
「わたしたちは見ての通り、冒険者よ。パーティー名は、『闇夜の光』。C級パーティーよ。わたしがリーダーのトコラ。仲間のバーニス、サライラ、アリテラよ」
冒険者には階級があり、登録したてはEランク。難しい依頼やらギルドに貢献やら、まあ、説明すんのがメンドクセーから、C級は一流の一歩手前って感じだ。ざっくばらんに言えば、だが。
ちなみに、B級からは人間止めたようなヤツだったり、違う種族だったりだ。
「そりゃご丁寧に。ベーで知ってんならベーでイイよ。そっちのは妹のサプル。一番下はトータで、今はゴブリン狩りにいってるよ。オカンは……って、オカンは?」
いつもなら畑仕事しているオカンの姿がどこにもなかった。
「かーちゃんなら下のバルコさんちにいってるよ」
まあ、ド田舎でもご近所付き合い大切だし、息抜きも必要。ガールズトーク(?)しにいってるいるのだろうよ。
「そんで、うちになんか用か?」
「ええ。今日一泊させてもらえないかと思ってね」
「宿屋なら下にあるが?」
年中無休の家庭的宿屋が、な。
「ザンバリーさんからの紹介なの」
「ほぅ。ザンバリーのおっちゃんから、ね。他におっちゃんは言ってなかったか?」
ザンバリーのおっちゃんはA級の冒険者で、大きなお友達だ。
「命の湯の代金に我々の冒険を披露しましょう」
恭しくお辞儀する騎士系ねーちゃんに、オレは満足気に笑った。
「フフ。ようこそ我が家に。歓迎するよ」
出会いもまた人生を楽しくしてくれる。素晴らしきかな今世である。
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