第46話 味噌(ゴジル)入荷

 冒険者ギルド(支部)を出て雑貨屋にやってきた。


「おばちゃん、いる~?」


 基本、客の少ないド田舎の雑貨屋。いつも店番しているとは限らねーし、雑貨屋だけでは食っては行けないので、奥の作業場で内職(織物してるんだよ)しているのだ。


「はいよー」


 返事がして三分弱。おばちゃんが奥から出てきた。


 遅い! って叫ぶヤツにはド田舎でのスローライフは無理だな。危機的状況でない限りド田舎時間は緩やかに流れているのだよ。


「おや、ベー。いらっしゃい」


「おう。小麦粉買いにきた。入ってるかい?」


 村にくる行商人は二人いて、雑貨屋に来る行商人は主に食糧品や衣服を持って来る。


 ちなみにもう一人の行商人は、なんでも屋的行商人で、注文を聞いてから持ってくる。なので村で毎回利用するはオレくらい。もはやオレ専属の商人と言っても過言ではないだろう。なんたって毎回金貨五、六枚は使ってんだからな、行商人じゃありえない稼ぎなってるぜ。


「ああ、入ってるよ。あと、ゴジルが入ったよ」


「おお! ゴジルが入ったのかよ。頼んでおいてなんだが、よく手に入ったな?」


 ゴジルとは味噌のことで、あるとだけ耳にしたのであったら仕入れててくれと頼んでいたのだ。まあ、入ればラッキーぐらいの感覚でよ。


「なんでも最近、王都で出回っているんだってさ。ジルさんもゴジルのことはあんたから聞いてたからね、大量に仕入れて持ってきたんだよ」


 ジルさんとは行商人のおっちゃんで、ゴジル(味噌)の旨さを力説し、入ればあるだけ買うと言ってたのだ。


「あるだけ買うかい?」


「もちろんさ!」


 本物の味噌(ゴジル)である。たとえ金貨百枚でも買っちゃうぜっ!


 っても、バルアでは国民食。しかも大量に王都に入っているらしく、一樽(五リットルくらい)銀貨一枚ときた。


 まあ、ド田舎にしたら超高級品だが、流通経路を考えたら良心的な値段である。


「随分と負けてくれたな。ほとんど儲けはないんじゃないのか?」


「あんたね、ジルさんに馬車を銀貨六枚なんて言うバカげた値段で売っておいてなに言ってんだい。商人だって恩義に報いる生き物なんだよ」


 ああ、そー言やぁ、売ったな、試作品を。壊すのもなんだからと、ちょうど行商にきてたジルのおっちゃんに払い下げしたんだっけ。


「別に恩義を感じるような馬車じゃないんだがな」


 確かにこの時代の馬車からしたら丈夫で性能が良いが、試作は試作。今使っている馬車に比べたら駄作もイイとこ。銀貨一枚でも申し訳ないほどのできである。


「ほんと、あんたは欲がないね。そんだけなんでもできるのにさ」


「なんでもはできないさ。できることをやってるだけだよ」


 こんなこと、前世の記憶があり、工作技術があれば誰にもできることだ。オレが特別ってわけじゃねーよ。


「まあ、その謙虚さがあんたのイイところなんだけどね」


 知っているから、できるからと、そんだけで傲慢になれるって、どんだけバカだよ。世間知らずにもほどがあるだろう。


「オレは得になればなんでもするし、バカ野郎相手に下手に出るほど人間できちゃいねーよ」


「はいはい、そうだね。あんたはへそ曲がりだったね」


 なにか慈しむ目で見られるが、ツンデレ作戦で生きてるオレは鼻を鳴らして不機嫌な顔を見せた。


「とにかく、全部もらってくからな」


 六樽受け取り、銀貨六枚を払って雑貨屋を出た。


 にしても、味噌ゴジル文化がない国で味噌ゴジルが出回るとか、いったいどーなってんだ?


 なにかとっても引っかかるぜ。

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