第45話 転ばぬ先の杖(布石)
「そーだ。売れ行きはどうですか?」
無理矢理話題を変えた。
「結構売れてるわよ」
さすが姉御。無理矢理変えた話題にも対応できるさ──目の前から殺気が──あ、うん、できる女性ってサイコーだぜっ☆
「サムリエの街やバリアルの街でクチコミで広まっているらしくてね、わざわざこちらの依頼を受けて買いにくるそうよ」
それは上々。やはり初心者冒険者に安く売って正解だぜ。
通常、冒険者ギルドは依頼を出したり受けたりするところ。薬草や魔物の部位(角とか爪とか毛皮とかな)は買い取るが、売ることはない。
だが、ギルド職員も冒険者であり、冒険者ギルドの名と存在(権力者から口出しされないように)を守るために依頼達成率を上げなければならない。
まあ、なんでもかんでも依頼を受けるってわけじゃねぇが、達成しやすい依頼はギルドとしても喜ばしいものだ。
なので『欲しいと言う奴にその値段で売ってくれ』と言う簡単な依頼は達成率を上げるのに持ってこいの依頼なのだ。
とは言え、こんなド田舎の冒険者ギルド(支部)。小屋自体が小さく、受け付け所が六畳くらいなのでそんなにものは置けない。
精々、本棚くらいのスペースしか場所をもらえなかったが、そこはもの作りはお任せあれのオレである。
与えられたスペースに置ける棚を作り、そこに矢に投げナイフ、革製のベルトやポーチ、靴や手袋、鞄に背負子の見本を置いたのだ。
もちろん、数種類の形のものやサイズ違いもあるが、それは倉庫(オレが造った)に置いてあり、客の要望に応じて姉御が持ってくるシステムになっているのだ。
「特に魔術付与された投げナイフが売れてるわね。昨日きた冒険者パーティーなんて箱買いしていったわ」
刃先に一定の負荷が加わると、結界に封じていた魔術(雷とか炎が出るとかな)が発動するものである。
サプルとトータの魔術である。当たればオークでもイチコロ。しかも十セットで銅貨十二枚。約一万円と安い。普通、これだけの魔術付与武器は最低でも一つ銀貨一枚はする。
さらに、投げナイフには結界で包んであるので普通の投げナイフとして再利用が可能だ(まあ、そんなに丈夫ではないから欠けやすいと思うがな)。
「あとは、予備ナイフも人気よ。パーティーの標準装備にするとか言ってたわ」
予備のナイフは持つことが基本だが、手頃な棒があれば槍にもできるし、幅があり専用の腕甲を買えば盾としても使える。もちろん、結界仕様である。
「作り手としても商売としても上々でやんす。補充分を持ってきやしたんでよろしくお願いいたしやす」
「うちとしても達成率を上げるのに助かるし、売上の三割も頂けるから文句はないんだけど、もうちょっと値上げしてもいいんじゃない? 魔術付与の武器が銅貨十二枚って安いにもほどがあるわよ」
「冒険者がその値段できてくれるのなら安いもんですぜ。平和が金で買えるならね」
冒険者が集まれば集まるほどこの近辺は平和になる。武器の試しで魔物と戦ったり、街道に出てきた魔物を退治してくれたりと、オレのスローライフな人生を安らかにしてくれるんだ、そのくらいご褒美である。
「ほんと、君の考えは先をいってるわね」
「転ばぬ先の杖、ってね、よりイイ人生を送りたいのなら先手を打っておかないと」
守りたい人生があり、守りたい家族がいる。小さくても毎日の積み重ねがよりよい未来を創るのである。
前世を怠惰に、惰性で生きた前世の記憶があるからこそわかる。
精一杯生きた先にこそ本当の幸せが待っているのだとな……。
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