第44話 守護者

 朝食を済ませたらすぐに山を下りた。


 ただ、山を下りるのもなんだし、冒険者ギルド(支部)にいくので内職したものを持っていくことにした。


 道を下るが誰にも会わない。


 山に木を切りにいく場合、だいたい九時過ぎぐらいだし、今は出掛ける準備をしている。年寄や女衆も朝食が終わった頃なので片付けや内職の準備をしているだろう。


 ガキどもも同じで、冒険者見習いじゃなければ家で落ち着いているか、手伝いをしている頃だ。


 集落に着く頃には、市は終わっており、畑仕事に出ているので、集落に人影は──いないのが普通なのだが、今日はなにやら賑わっているよーだ。


 小規模の隊商(五台)と護衛の冒険者パーティー(四人)が宿屋の前や脇の広場にいた。


「珍しいこと」


 うちの村を通るルート(街道)は道は険しいが比較的安全で、王都まで続いており、そして隣国のザンバレア帝国へと続いてる由緒正しい街道である。


 だから隊商が通るのは珍しいことじゃねぇが、だいたいは連合を組んでの大キャラバンとなり、集落に続くルートは通らない。村外れのルートを辿り、広場で野営する。


 まあ、小規模の隊商もいなくはないが、やはり広場で野営し、集落にはこない。きたとしても冒険者がギルド(支部)に報告か、食糧の確保にくるくらいだ。


 隊商や冒険者らを横目に通り過ぎ、冒険者ギルド(支部)の横の広場に馬車を停めた。


 今日はシバダたちはいないよーだ。


 まあ、会長さんらに食糧を運ぶ(オレが作ってやったリヤカーで)依頼で儲けもしたし、疲れたんだろう。休むのも冒険者の仕事。なにごともメリハリは大切である。


「おっちゃん、いるかー」


「いるに決まってんだろうがっ、クソガキがっ!」


 今日も切れる三十代は元気である。


「今日も暇そうでなによりだ」


 切れる三十代が元気なのは平和な証拠。実にイイバロメーターである。


「そうじゃないのよね、これが」


 なにやら姉御のトーンが少々暗い。なにかあったんですかい?


「ゴブリンがね、結構出てるのよ。今日もバンくんたちがアサラニ山の方に出てるわ」


 アサラニ山は王都側──隣村との間にある山で、ここから十三キロは離れている。


「じゃあ、宿屋の前にいた隊商もその関係で?」


「まだ確証がある訳じゃないんだけど、広範囲でゴブリンの目撃情報が入ってて、昨日きた隊商もゴブリンの群れに襲われたそうよ」


 ほー群れに、ね。


 繁殖能力に優れたゴブリンはどんな種族(♀)とも交尾ができて子を生ませることができる。


 群れ、となればどこかの村が襲われた率が高いが、ゴブリンにはちゃんとメスはいるし、メスがいる限りは他の種族(♀)を襲ったりはしない。そもそも近隣(っても三十キロは離れているがな)の村が襲われたって話は聞いていない(行商人のあんちゃん談)。


「被害は多いんですかい?」


「いえ、目撃情報に比べて被害の数は少ないし、護衛を雇っていたら被害も出ないくらいの群れらしいわ」


 まあ、それなりの冒険者なら素手でも勝てるのがゴブリンだからな、十匹以下の群れなら退治するのに五分もかからんだろうて。


「まあ、ギルドとしては心配でしょうが、ゴブリンキングとか、オークキングに従われているってわけじゃないのなら山に入る者としては安心です」


「君だけよ、そんなのは。他の人は戦々恐々よ」


「まあ、オレには魔術がありますからね。群れじゃなければなんとかなりますし」


 神童と呼ばれるオレだが、一部の人間には"魔術師"とも"小賢者"とも呼ばれている。


 更に一部(目の前の人)からは、"守護者"と呼ばれている。


「無茶しないでね」


 その言葉にオレは素知らぬ顔をするだけであった。

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