第41話 楽しみは計画的に
「さて。船をなんとかする前に、まず、船の現状を教えてくれるか?」
そう言って囲炉裏(炭じゃなく魔術による火を使用してます)の砂で船を作って風の魔術で空中に浮かせた。
「……ほんと、いろんな魔術を使うな……」
「量がないからな、小技に走ったまでさ」
土魔法なら発動させるときに少し魔力を使うだけだから、山を掘るのも固定させるのも反則級に使用できるが、魔力は人並み(一般的な魔術師に比べてな)。土魔術なら三メートルも掘らないうちに魔力切れになる。
「それでも異常だがな」
「で、船のどこをやられたんだ?」
「ここからここまでをやられたよ」
会長さんが指でなぞったところに亀裂を入れる。
「喫水線より下か。よく沈まなかったな」
「喫水線とかよく知ってるな。ベーは船にも詳しいのか?」
「いや、そんなに詳しくはない。基礎的な知識だけだな」
テレビの特集番組で観た程度の知識さ。
「それでも凄いことだが……まあ、ベーだからと納得しておくか。沈まなかったのは風の力で浮かせたからだ」
「魔力は大丈夫なのか? 魔道船の知識は更にないが、魔石を使用してるのは間違いないんだろう」
魔物や発掘魔石がこの世界の石油。それを利用してきたから魔道船や飛空船が生まれたのだ。
「魔石は充分あるが、目的地まで到達できる量ではない。ここから二百バルもあるんだからな」
一バルはだいたい一・六キロだったよーな。まあ、三百二十キロくらいか。
前世なら大した距離ではないが、この世界では別世界にいくような距離だ。ましてや海は未知の世界。海竜どころか海神様までいる海である。
陸路より大量に、早く運べると言う利点しかない。この世界、安全な輸送路などお伽噺の世界にしかないのだ。
「まあ、早ければ早いほどイイんだろうが、猶予はどのくらいあるんだ? ここにいられる時間で言えば」
「正直言って五日がやっとだ」
「よくそれで馬車でいこうとしたな」
馬車で一日に進める距離は約三十キロくらい。バルダリンにいくにしろ王都にいくにしろ、とてもじゃないが五日でいける距離ではない。早馬でも八日は掛かるぞ(夜は走れないし)。
「途中のバルサナの街にいけばなんとか伝える手段があったからな」
おや。この世界にも遠くと話せる魔道具があるんだ。それ欲しいな。幾らすんだ?
「とは言え、船が王都に着かなければ意味はないがな」
そりゃそーだ。
「まあ、五日もあれば充分か。ただ、穴は木材で塞いでくれよ。まあ、魔術で塞げないこともないが、強度的に弱くなるし、時間もかかる。塞いでくれれば王都まで辿り着ける強度は保証するよ」
「塞ぐと言っても木材がない」
「それなら大丈夫だ。樽を作る家があるから金さえ払えば手に入れられるよ。釘はうちにたくさんあるから問題はない。そうだな、木材は明日の帰るときに運ぶとして、穴を塞ぐにはどのくらい時間がかかる?」
「塞ぐだけなら大して手間はかからんよ。夕方までにはできるだろう」
「じゃあ、ちょっとがんばって三日で終わらせるか。一日あれば出した荷物を入れられるだろう?」
「そうしてもらえるならありがたいが、三日で可能なのか?」
「朝に一回。昼に一回。夕方に一回。穴を覆う魔力の膜を貼る。膜自体は薄く、強度はないが、九枚も貼れば海竜に激突されても破られない強度になる。いわゆる多重膜結界だな」
「多重膜結界?」
「まあ、簡単に言うなら薄い板でも枚数を重ねれば木材のように固くなるってことだ。魔力もそれと同じことができるんだよ。薄いから八割程度の魔力で済み、時間を空けることで魔力が回復される。なのでがんばれば三日で終わらせることができるってわけだ」
「……………」
驚き過ぎてなにも言えなくなる会長さん。
まあ、実際、結界を使うので労力が掛からないどころか一分もしないでできちゃうのだが、最低限の自己防衛は必要である。例え友人だろうが、言えないことは言えねーし、無条件にはなれねーんだよ。
「そんで、それまでの食料はオレが出すから市での買い占めは止めてくれよ。市が立つ余裕のある村だが、四十人も五十人も養えるほと余裕があるわけじゃねぇ。つーか、なんで魚を食わねーんだよ?」
船乗りなら魚食えよ。航海中、たまに魚を釣って食ってるって聞くぞ。
「……それは、お前が食事に恵まれてるからだ。一般的な船乗りの食事は質素どころか苦行だ。毎日毎日芋を蒸かしたものか豆を煮込んだもの。魚の干物に魚の塩漬け。陸に上がったときくらい旨いもんを食いたいのが人間ってもんだ」
「……どこまでも救われねーな、この世界の食事は……」
前世の記憶と三つの能力をくれた前世界の神(?)に大感謝だぜ。
「……まあ、そんな事情ならしかたがねーか」
オレもそんな生活してたら肉やら野菜を買い占めるかもしれんしな。
「食糧はオレが用意するが、その運搬は冒険者ギルドに依頼してくれ。見習いたちの小遣い稼ぎをさせたいからな」
「なぜ、そんなことをさせるんだ? いくら同じ村の者でも面倒見すぎじゃろうが」
「わかんねーかい?」
「わからん」
挑発して言ったらあっさり返されてしまった。
「言ったろ。オレは自分で冒険しようとは思わないが、他人の冒険譚を聞きたがるくらいには好奇心旺盛だ、ってな」
いつかあいつらがこの村を出ていって、いろんな冒険をしたあと、この村に帰ってきたときのための先行投資さ。
「つまり、老後の楽しみってことさ」
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