第37話 風呂は命の湯

「どうだい。おもしろいのは見れたかい?」


 家畜らを小屋に戻し終え、馬車の前にいた二人に声をかけた。


「ああ。おもしろいものばかりで飽きないな。特にこの馬車はおもしろい。今まで見たこともない造りだ。これもベーが造ったのか?」


「まーな。いろいろ作るのが好きで、いろんなのを作ったよ」


 前世ではそんな性格ではなかったのに、今世は作ることが楽しくてたまらないのだ。


「このクルクルした鉄もか?」


「ああ。馬車の揺れをなくそうと思ってな、いろいろ試行錯誤して完成させたよ」


 土魔法でバネは作れるのだが、馬車のどこに着けたらいのかわからなくて苦労したよ。


「これも自己流なのか?」


「まあ、自己流だな」


 そうとしか言いようがねーからな。


 馬車に積んだままの肥料樽と魚樽を下ろし、肥料樽は家畜小屋の前に。魚樽は家の前、ラーシュからの土産の横に置いた。


「……な、なんと言うか、いろいろ突っ込みたいが、とりあえず、これはなんなのだ?」


 ラーシュからの土産を指差す会長さん。


「うん? 文通友達からの土産だが」


「……わしの目が狂ってなければ、南の大陸のラージリアン皇国の紋章に見えるのだが……」


「へー、さすが大商人。南の大陸のことまで知ってんだ」


 南の大陸なんてあることすら知らない商人がほとんどなのに、国名どころか国の紋章まで知っているとはさすがとしか言いようがないな。


「……やはり、ラージリアン皇国の紋章なのか……」


「な、なぜ、それがここに……?」


「渡り竜で運んでんだよ。まあ、年に一回の文通だがな」


 不便っちゃあ不便だが、このスローライフな生き方には丁度良い。風情だと思えばまた楽しいだ。


「……な、なぜ、そんなところと文通を? いや、なぜ文通できるのだ? 言葉どころか文字も違う国の者と。しかも、ラーシュと言えば第一皇子ではないか……」


「ほんと、よく知ってるな。まぁ、説明すんのメンドーだから気が合ったってことで納得してくれ」


 そう面と向かってなんでだと聞かれても答えらんねーよ。


「──あんちゃん、風呂の用意ができた」


 と、トータが現れた。


「おう、ありがとな。会長さんら、風呂に入る文化があるとこの人か?」


「風呂なんて貴族か王族ぐらいしか入らんぞ」


「やっぱりか」


 まあ、行商人のあんちゃんからの話でそうではないかと感じていたが、やはりこの国近辺の文化レベルは同じなのか。


「まあ、この辺は水も薪も豊富だし、オレらには魔術があるからな、風呂なんて珍しくもねーし、それほど手間でもねーんだよ」


 まったく、この現世には不条理なことは多いが、風呂のよさをわからねーヤツがいることが最大の不条理だぜ。


「風呂は文化。風呂は娯楽。命の湯。風呂のよさをわかんねーなんて人生の半分は損してるぜ」

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