第36話 我が家にようこそ

「……あれは……」


 もうちょっとで家に着くと言うところで、商人のあんちゃんが訝しげな声を上げた。


「子ども?」


 会長さんも訝しげな声を上げる。


 考えるな、感じろセンサーの有効範囲は最高で百メートル。慣れた魔力なら判別可能だが、人(魔力)が多かったり、阻害物(魔力を帯びたもの)があるとわからなくなるものだが、ないよりはあったほうが便利と言った感じのセンサーだ。


 魔力が感じられる方向に目を向けると、トータがピョンピョン跳ねながらこちらに向かってくるところだった。


「ああ、あれはうちの弟だよ」


「弟?」


 なぜに疑問系かは知らないが、そうだと答えた。


「……あ、あれは、いったい、なんなのだ……?」


「風の魔術だよ」


 そう簡素に、真実を教えてやる。


「魔術? いや、まだ、五、六歳に見えるが……」


「ああ、見た通り五歳だよ」


「五歳で魔術?! あ、いや、目の前で起きてるのだから真実なんだろうが、素直には信じられん……」


 まあ、そーだろうよ。


 村の子も十二歳くらいから簡単な火の魔法を覚えるし、魔術なんてもんは学問と同じ。学校で覚えるものってのがこの時代の常識だしな。


「……ま、魔術は誰が教えたのだ?」


「オレだよ」


 そう素直に答えるが、反応が返ってこない。どったの?


「……ベ、ベーは、誰から?」


「自己流だな」


 また反応が返ってこない。


 敷地内に入る頃、トータと合流する。


「ご苦労さん。怪我はないか?」


 リファエルの背に軽やかに着地したトータに尋ねる。


「ない。超元気」


 兄の口調を真似る弟に苦笑する。


 スーパー幼児とは言え、五歳は五歳。まだまだ甘えたい年頃だし、真似たい時期でもある。まったく、可愛い弟である。


「話は後で聞くよ。サプルに客がきたことを伝えてくれ」


「うん」


 猿顔負けの身軽さでリファエルから飛び下り、またピョンピョンと家へと跳ねていった。


「……な、なんと言うか、変わった魔術だな……」


「まぁ、こんなド田舎じゃあ魔術を教えてくれるヤツなんていねーしな、どうしても自己流になっちまうんだよ」


「いや、自己流でどうにかなる魔術じゃないぞ、アレは?!」


「オレは創意工夫の人。あればできる。やればできる。失敗を恐れるなだ」


「メチャクチャだな、お前は……」


 オレは凡人の中の凡人。理屈なんて後から考えたらイイ。こじつけたらイイ。あったからできた。やればできた。成功したんだからイイじゃない、だ。


 なんてやっている内に家畜小屋の前に到着し、御者席から下りる。


「あんちゃん、お客さんだって?」


 家の中からサプルとオカンが出てきた。


「ああ。天下の大商人様だが、行商人のあんちゃんみたいにすればイイ。あと、夕食の準備はもう始めたか?」


「うん。今日はギョーザにしようと思って」


「お、ギョーザか。そりゃ楽しみだ。なら、麦粥にするか。保存庫から一番古いのを出してくれ。オカンは部屋の用意を頼むよ。トータは風呂の用意だ」


 行商人のあんちゃんを泊めるので皆も慣れている。すぐに仕事に取りかかった。


「会長さんたち。悪いが用意が整うまでそこら辺でも見ててくれるか」


「ああ、構わんとも。なにやら興味深いものばかりだしな、ゆっくり頼むよ」


 まあ、そのために招待したんだ、心いくまで見てくれ。


「なんにせよ、我が家にようこそ」

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