第35話 同年代(精神的に)
「ベー! どこいってたのよっ!」
あ、そー言やぁ子守りしてたの忘れてたよ。
「おーサリバリ。今日も元気に遊んだか?」
忘れていたことを微塵にも見せず、自然に手を挙げて笑顔を見せた。
「遊んだかじゃないわよ! あたしをほっといてなにしてのよ!」
「スマンスマン。ほれ、帰るぞ~」
サリバリの文句を完全に無視する。一々反応していたら理不尽に殺されるからな。
サリバリのところまできたら馬車の速度を緩め、乗りやすくしてやる。
アホ子ちゃんとは言え、ド田舎生まれのド田舎育ち。走っている馬車に乗れるだけの運動神経がなければ生きていけないのだ。
「この子は?」
「うちの部落の子だよ。子守りも大事な仕事だからな」
「子守りしてんのはこっちよ!」
拳が飛んでくるが、五トンものものを持っても平気な体はすこぶる頑丈(でも肉感はある)。サリバリに一千回殴られても痛くはない。ま、うっとおしいがな。
サリバリの文句におざなりに相手しながら家へと届ける。
どうやらオカンに黙って出ていったらしく、拳骨をもらっていたが、ド田舎の教育なんて男女関係なくそんなもん。気にせずサリバリんちを後にした。
「牧歌的だな」
会長さんが哀愁込めて呟いた。
「会長さんも田舎生まれかい?」
「フフ。人の感情にも敏感なのだな。ああ、田舎生まれの四男坊だったよ」
「苦労が目に見えて涙しか出てこねーな」
田舎の四男坊五男坊なんて奴隷よりちょっとマシなくらいの存在だ。家から出れず結婚もできない。家の手伝いだけで人生を終える。
まあ、逃げ口として冒険者や傭兵、運が良ければ商人か職人の弟子になれるが、学もなければ腕もない田舎モンがのしあがるなんて口で語れるほど容易ではねー。
大半が死ぬか、下男下女の人生だ。この会長さんのように成功するなんて奇跡以外なんでもねー。それだって一日二日で語られるような苦難苦闘ではなかっただろうよ。
「まあ、飽きない人生ではあったがな」
「オレには向いてない生き方だな」
会長さんの生き方に否定はしないし、変化のない日々は願い下げだが、オレはゆっくりと、毎日を感じながら生きたいもんだ。
「若いのに枯れてるな」
「イイ年してまだ突っ走ってるじいさんに言われたくないよ。死ぬまで現役なんて後続を殺すだけだ」
ワンマン経営は、しているときはイイが、二代目になったとき勢いが落ち、下手したら潰れかねない。
ましてやこんな世界(時代)だ。栄枯盛衰なんて日単位だ。大商会だって百年持てば続いた方だろうよ。
「耳が痛いな」
まあ、突っ走ってるヤツは後ろなんてなかなか見ないもの。躓いて、転んだときにやっと周りが見えるもんだ(オレの経験則で語ってるに過ぎんがな)。
「まぁ、未だに突っ走っていられんだから遅くはないだろうさ。魔力があるヤツは長生きするからな」
考えるな、感じろを信条にしてると結構相手の魔力を感じ取れるし、魔物や魔獣を発見しやすくなるのだ。
「ベーと話していると長年の親友としゃべっているかのようだよ」
「大商人にそう言われるとは光栄の至りだ」
ド田舎での生活は充実してはいるが、話の通じるヤツはいない。だから、こーゆー同年代(精神的にな)と話せるのは結構楽しいものである。
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