第34話 うちに泊まる?
おしゃべりと言う名の歴史探検も終わり、貝を粉々にした樽を馬車に積んでいると、先程のあんちゃんとガタイのイイじいさんがやってきた。
「腰の軽いじいさんだ」
いや、さすがと言うべきか。一代で大商人になっただけはある。なんとも行動力がある。
「この軽さで稼いできたからな」
フフ。耳がよろしいことで。
「先程はうちの若いもんが無理を言ってすまんかった。わしは、バーボンド・バジバドル。バジバドル商会の会長だ」
「それはご丁寧に。隣のあんちゃんに聞いてはいるだろうが、オレの名は呼びづらいからベーでイイよ。村じゃそれで通ってるからな」
「さすが村の者から神童と呼ばれるだけはある。堂々としておる」
じいさんのセリフにオレは肩を竦める。
神童、ね。まあ、見た目で言うならそうなんだろうが、中身は五十も半ば。ただの人──どころかただ年を食っただけのオッサンである。恥ずかしくて悶え死にそうだよ。
「十で神童、十五で天才、二十歳過ぎたらただの人ってな。オレなんか普通の代表みたいなもんさ」
うろ覚えだからあってるかは知らん。
「クックックッ。おもしろいことを言う。坊主が──いや、ベーが普通ならわしは凡人だな」
あんたが凡人なら世間のヤツらは愚者だよ。
「まっ、他人の評価なんてどーでもイイさ。オレはオレ。会長さんは会長さんさ」
比べたところで意味はない。人それぞれ。自分の道は自分しか歩めないって言うしな。
「確かにな」
クックックッと笑うじいさん。一代で築いたヤツは気難しいのが多いと聞くが、なんともフレンドリーな会長様だ。
「ところで、それはなんだ?」
「粉々になった貝だよ」
「貝? 貝をどうするんだ?」
「さて。どうするんだろうな?」
生憎、オレはひねくれててな、そう簡単には素直にしゃべらないんだよ。
じいさんもそう簡単に口を割るとは思ってなかったようで、それ以上の追求はしてこなかった。
「そんで、オレになんか用なのかい? それともたんなる散歩かい?」
「いや、ベーに会いにきた。助けてもらおうと思ってな」
「十歳のガキにかい?」
「ああ。十歳のガキにさ。笑いたかったら笑ってくれても構わない。頼れるなら死神でも頭を下げるさ」
「まぁ、頼むだけならタダだしな」
また、クックックッと笑う。
「もちろん、礼はする。なんでも、とは言えんが、わしの力の範囲内で、最大限に礼はする」
「相当切羽詰まってるようだ」
「ああ。これが失敗すれば商会は潰れ、王都は混乱に陥る」
混乱? なんては口にはしない。顔にも出さない。会長さんに言える精一杯の範囲なんだろうし、厄介事に巻き込まれるのもゴメンだ。立ち入らないのが吉である。
「まあ、助けてくれって言うのなら助けてやっても構わんが、オレは罵倒されたり否定されてまで人を助けてやるほどお人好しじゃねーし、誠意のねーヤツは大嫌いだ。まあ、だからって信用や信頼なんか求めちゃいない。ましてや助けたことを吹聴する趣味もねぇ。それでもオレに助けを求めるのかい?」
「頼む。助けてくれ」
頭を深々と下げるじいさん。ほんと、さすがだよ。
「会長さん。話は変わるが、うちに泊まりにくるかい?」
一瞬、わけがわからない顔をしたが、経験と勘の塊のような会長様。すぐにニヤリと笑った。
「喜んでお邪魔させてもらおう」
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