第33話 幸せすぎて怖い
まあ、そんなこんなでおしゃべり再開。コーヒー(モドキ)を飲みつつクッキーやら貝を焼いたのを食いながらの優雅な休息時間である。
あん? 商人のあんちゃんなら納得いかない顔で帰っていったよ。ほんと、まだまだ修行不足だな。
「そー言やぁ、あの商船、海竜にやられたって聞いたが、村の船には被害は出てんのか?」
海竜 ってもいろんな種類がいるが、この海域に生息する海竜は、〇メラのような亀タイプで、基本外洋で小魚を食っている。
まあ、小魚の回游に因っては岸近くまでくることもあるが、船を襲ったりするような気性ではない。どちらかと言えば臆病で、船には近寄ってはこない。
「いや、うちの船には被害はないな」
「だよな。出てりゃあ、大騒ぎだ」
他の大型の魚も船なんて襲ったりはしないし、いるとも聞いたことがねぇしな。
「そーいやぁ、わしらが子どもの頃、商船が沈没して残骸やら人が流れてきたのがなかったか?」
「あーあーあったね、そんなこと」
「確か、あのときもこんな時期だったね」
「そー言やぁあんときも大漁で海神様のお恵みだとかなんとか大人たちが騒いでおったわい」
ちなみにコレ、村長な。暇なのとか聞いたらダメだからね。
「海神様、ね。ほんとにいんのか?」
まあ、ファンタジーな世界である。いても不思議ではないし、転生する前に神(?)に会っている(正確には感じただが)。しかも、この海にはいろんな人魚族や魚人族が暮らしている。なにがいても否定できないのが現世である。
「そりゃおるともさ」
あっさり肯定する村長殿。マジか!?
「まぁ、わしも見たことはないが、わしのじい様は見たと言ってたし、人魚族では信仰されておる」
「……それは知らなんだ……」
人魚族とは四年前ぐらいから交流してるが、そんな話一度も出なかったぞ。
「わしのじい様も見たと言ってたな。なんでも海神様の通り道があるとかで、運が良ければ岬からも背鰭が見えたとか」
背鰭って、魚かよ? ポセイドンみたいなおっちゃんの姿した巨人じゃねーのかよ。なんかがっかりだよ……。
「ま、まあ、姿はともかく、あの商船も海神様の通り道でぶつけられた口だな」
昔の商船の残骸が流れ着いたってことは軽く十倍はあるんだろう。でなけりゃ船を粉々にできるわけがねぇもの。
「しかし、丈夫な船だね。海神様がぶつかって沈まないんだから」
「たぶん、あの船は魔道船だな」
「魔道船? なんじゃいそれは?」
「オレも詳しくは知らんが、魔力で動かす船を魔道船って言うんだよ。あの図体で帆がやけに少ないだろう。風の魔石で船体を浮かして風を生んで走らせる。まあ、あれだけの図体となると並みの魔石じゃねーな。風竜の魔石を使ってんじゃねーかな?」
魔物には魔石があり、それを加工(魔術的に)して魔道具を作る技術は五百年前からある。魔道船も百年の歴史(普及しているかは別だが)がある。
飛空船も魔石は使っているが、軽くするために浮遊石を使用している。ちなみに飛空船は三百年前からあるそーな。
ファンタジーでアンバランスなこの世界。変なところで前世より飛び抜けた技術を持ってんだよ。
「風竜ね~。あ、そー言やぁ、渡り竜がきたな。いつもくるやつか?」
「ああ。南国はこれから夏だからな」
ラーシュの手紙では、どうやら亜熱帯地方の国らしいよ。
「南の国か。一度はいって見たいもんじゃな」
「わたしはもう一度バナナを食べたいわ~」
「おれは、パオを食いてなぁ~」
「わかったよ。次くるとき持って来てやるよ」
「やったー!」
「悪いな、催促したみたいで」
「構わんよ。どうせうちだけじゃ食い切れんしな」
食が充実した我が家では、南国の果物だろうが海の珍味だろうが、一つの素材でしかない。だから季節もの感覚で一年に一回食べたら満足なのだ。
「相変わらず気前がイイな、ベーは」
「なに、幸せのお裾分けはさらなる幸せを呼び込むからな、気にすんな」
余りにも幸せすぎて怖いくらいの今世だぜ。
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