第29話 勝手に想像しておくれ
小高い山の頂上(二十メートルもない山だがな)にくると港が一望できた。
基本、この国の海岸沿いは、リアス式海岸のように断崖や岩が多く、船が接岸するのには適してないが、所々砂浜があり、漁をするのに適した場所がある。
うちの村もその偶然により漁を始めたそうだ。
十六軒の家が密集して建てられ、砂浜には四隻の小舟が上がっていた。
漁は朝なので、今は引き揚げた(底引き網)魚を浜辺にある協同作業場で捌いていることだろう。
その浜辺から左に五十メートル。岩場に巨大な船が接岸していた。
「確かに島のようだな」
ここから五百メートルは離れているが、この時代からは想像できないくらいのサイズなのは理解できた。
前世の西洋船に似てなくはないが、形がなにやらタンカーっぽい(勝手に想像して)。
接岸するならそこしかないとは思ってたが、よく接岸できたな。よっぽど腕の良い船員が揃ってるか、それとも船の性能がイイのか、どちらにしても見事に接岸させたものだ。
岩場には急場の荷置き場が作られ、たくさんの箱が積まれていた。
その周りには見張りなのか、剣を持った男たちが四人が巡回しており、そのうちの一人がこちらに気がついて、仲間たちに知らせ、そのうちの一人が船内に入って行った。
「警戒厳重だが、なにを運んでんだ?」
「なにかは聞いとらん。ナガの話では夜も篝火を焚いて見張っとるらしいぞ」
ご禁制、なんてもんはないから多分、金属系か輸入品かだろうよ。
山を下ると、ちょっとした畑と干し場、そして、薪小屋がある。
干し場では海の女衆おばちゃんらが働いており、オレらに気がついて近づいてきた。
「村長、どうかしたのかい?」
その中で一番のおしゃべりさんが声をかけてきた。
「船にちょっとな。なにか変わったことはあったか?」
「いや、なんもない──あ、そー言やぁ、なんか船長と若いのが揉めてたね。食料がどうとか」
「おばちゃん、漁の調子はどうだい?」
村長が口を開く前におばちゃんに尋ねた。
「あん? 最近は海神様の機嫌がイイからね、大漁続きだよ」
「船のヤツら、魚を譲ってくれってきてるのか?」
「いや、こないね。いつも集落にいって調達してるよ」
漁師じゃなくても船乗りなら航海中に魚を釣って(まあ、銛で突いてだか)食べることはあるし、塩漬けの魚も立派な保存食。積んでないってことはない。積んでるのに食わないのは食い飽きてるか、それとも海竜がぶつかったときになくしたか、または万が一のときのために残してるからか。まあ、真実はわからんが魚はいらないと言うこと。なんにしても村の事情なんか知らんってことだな。ったく。迷惑なヤツらだぜ!
「ベー」
「おばちゃん。大漁ならまた魚を譲ってくれよ。今度、猪を一匹持ってくるからさ」
「猪一匹かい!? そりゃまた豪勢だね。なら樽一杯詰めてやるよ!」
他の村に比べたら肉を食べる頻度は高いが、それでも肉は贅沢品だ。三日に一回(鶏肉が鍋に入ってたらな)口にできたら子供も大人も大喜びだろうよ。
「悪りぃな、おばちゃん」
「なに言ってんだい。あんたのお陰で肉は食えるし、ガキどもが進んで働くようになったんだから礼を言うのはこっちだよ」
これぞ日頃の行いの結果。損して得とれ〇ルネコ作戦である。
「んじゃ、帰りに寄るよ」
「ああ、用意しておくよ」
おばちゃんらに礼を言って馬車を発進させる。
「村長。話し合いには口は出さないが、こちらに振られたら口は出すよ」
「そうか。助かるよ」
別に交渉力が高いわけじゃねーが、行商人のあんちゃんと駆け引きはしょっちゅうやってるし、隊商相手に店も出している。余程のやり手じゃなければバカはしない。
それを村長は知っているからオレに同行してきたのだ。
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