第28話 ツンデレば異端は和らぐもの
「サリバリ、港にいくが、どうする?」
まだシバダたちとおしゃべりするサリバリに声をかけた。
アホ子ちゃんではあるが、こんなド田舎では美少女の分類に入る。
オレの琴線にはまったく触れないが、同年代からは結構人気があり、大人たちからも愛されていた。
まあ、バカな子ほど可愛いと同じ理屈なんだろうよ。まぁ、そう思うと愛らしいと感じなくもないがな。
「ここにいる~」
「んじゃ、シバダ。サリバリのお守り頼むな~」
「子ども扱いするなっ!」
練習用の石礫が飛んでくるが、鍛え抜かれたオレには止まっていると同じこと。パシっと受け止め、三十メートル先にある的を撃ち抜いてやった。
「兄貴、すげぇぇぇぇっ!!」
「ふっ。そんなに驚くなよ。こんなもん超余裕だぜ」
……ヤベー! ついやっちまったが、外してたら面目丸潰れだったぜ……。
明日からサボっていた投擲術の練習を再開することを心に決めながら御者席に上がった。
「おーい、ベー!」
いざ発進と鞭を振り上げたとき、誰かがオレを呼んだ。
声がしたほうへと目を向けると、つる禿げの村長がこちらへと向かってきた。
我が村の村長様は、まだまだ働き盛りの六十二歳。この村から出たことはないが、オババの一番弟子だけあって頭の回転は悪くはねーし、話のわかる人だ。
まあ、人としてはイイんだが、悪意や騙しには強くはないのが悩ましいところだな。
「どうしたい、村長?」
「お前、港にいくんだろう。すまんが乗せてってくれんか?」
「ああ、構わんよ」
ド田舎故に無駄に広いため、集落から海部落まで一キロはあり、途中小高い山がある。
ド田舎感覚では遠くはないねーが、歩くとなれば結構時間が掛かるし疲れもする。ましてや雑貨屋おばちゃんに責め立てられたらじっとはしてられんだろうよ。
荷台に乗るのを確認して馬車を発車させた。
「なあ、ベーよ。サマバの言ってたことは本当か?」
サマバとは雑貨屋のおばちゃんの名です。
「おばちゃんがなに言ったか知らんが、オレにはなんの事情も入ってこねぇんだ、もしもの話しかできねーよ」
「そ、そうじゃったな。すまん」
「世間話の一つだ、謝ることねーよ」
ガキ相手でも自分が間違ってたらちゃんと謝る。ほんと、こーゆーところがあるから無下にできないんだよな。
「で、商船ってのはでかいのかい?」
「ああ。こんなところに住んでりゃあ商船の一隻や二隻、珍しくもないが、あんなでかい船は初めてじゃよ。まるで島じゃな」
オレも商船は何回か見たことはあるが、精々でかくて二十メートル。村長が驚くんだから少なくても五十メートルはありそうだな。
「何人乗ってたんだ? 護衛らしきヤツはいたか?」
「剣を持った奴は十人くらいはいたな。船員ははっきりとはわからんが、四十人以上はおったかな?」
「となれば結構でかい商人のようだな。名前とか聞いたか?」
「確か、バーボンド……バ、なんだかのぉ……?」
「バジバドル、じゃなかったか?」
「お、おう! そんな名じゃったよ。有名なんか?」
「このアーベリアンじゃあ、一番の商人だな。財力で言えば侯爵にも負けてないとか。国王ですらバーボンド·バジバドルの人脈と財力の前に逆らえない、ってな話があるそーだ」
まあ、行商人のあんちゃんからの受け売りだがな。
「……そ、そんな、偉い人じゃったのか……」
バーボンドなら暴力に走ることはないだろうが、厄介の度合いは三段階くらい跳ね上がった感じだぜ……。
「そんな偉い人じゃあ、無下にもできんな。どうしたらイイもんかのぉ?」
十歳のガキに聞くなよ、と言ったところで意味はない。
この村でオレは神童扱い。オババにも勝る小賢者と認定されている。
まあ、大人でも知らんことを知っていて、四歳で文字や計算を使いこなし、五歳で薬師となるばかりか魔術まで独学で使えるようになった。
普通なら異端扱いを受けそうだが、転生したと自覚したときから対策はしてある。
まず知識の押しつけはしない。教えてくれと言う者だけに教え、近所付き合いは欠かさず、村の誰ともコミュニケーションをしてきた。弱い者を助け、子どもを大切にする。
傲慢にならず尊大にならない。生意気ではあるが、悪口は言わない。他にもいろいろあるが、まあ、ちょっとしたツンデレになれば異端が変人くらいには落ち着くものだ。
「まあ、取り敢えずいってからだな」
この村に選択肢はそうはないが、有益なカードはこちらが握っている。バカなことをしなければ損はしないさ。
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