第22話 不運な商船はイイ余興

 なんか今さらな感じがするのが不思議でたまらないが、オレが住む村の名前は、ボブラ村と言う。


 なんでも開拓時代のリーダーがボブラと言う人だったからそうなったらしい。


 まあ、なんの謂われもない村の名前なんてそんなもんだろう。オトンのようなキラキラネームじゃないだけマシだろうよ。


 そんなボブラ村の中心地──正式名は、カラヤ集落だが、村人からはただ"集落"と呼ばれている。


 田舎で街と言ったら駅前みたいな感覚だ。都会の感覚はよー知らん。


 そんな村の中心地には、雑貨屋や鍛冶屋、多目的宿屋、パン屋、冒険者ギルド(支部)、役場兼村長宅、集会場、薬所、日替り露天、広場、あとは開拓時代から続く農家が十四軒が集まっている。


 可もなく不可もない村ではあるが、近隣の村々と比べたら発展している方だし、豊かな土地だろうよ。


 山部落の税(薪)は、生活で重要な燃料ではあるが、火事となるものであるから集落の中に置くことはできない。


 なので集落から百メートル離れた場所、四ヶ所に分けて置くのだ。


「バルじぃ、薪を運んできたぞ」


「バルじぃ、おきろー!」


 小屋で寝てた薪の管理人のじいちゃんに声をかける。


 木は各々家で切り、山で薪として割り、各々の家へと運ぶ。そこで乾燥させてから集落に運ぶようにしている。


 本当なら集落に持ってくるのが楽なんだが、薪置場(掘っ立て小屋)にも収納力と言うものがあり、管理する者を増やすことにもなる。


 薪の管理人は、このバルじぃとガーバルじぃの二人だけ。夜の火番は村の青年団がやっている。


「……んはぁ? ……ああ、お前か……」


「お前かじゃねーよ。春とは言え、そんなとこで寝てたら風邪引くぞ」


 まだ昼だから陽気はイイが、風はまだ冷たい。齢七十の体にはよくないぞ。


「なに、こんな年じゃ、いつ死んでも構わんさ」


 確かに、この時代の食料事情や不衛生の中、七十まで生きてこられたのは幸運と言えよう。今も五体満足で薪の管理人をしている。なんともあやかりたい人生である。


「枯れたこと言ってんじゃねーよ。そこまで生きたら百までしぶとく生きろや」


「アハハ! ほんに、相変わらずだな、お前は」


「なにが相変わらずだが知らんが、薪はどこに置くんだ?」


 ジジイの話は長くなるからな、とっとと話を進める方が無難だ。


「遠くてすまんが、東の置場に頼むよ」


「別に遠くはないさ。運ぶのはこいつだし、下ろす手間はどこだろうと変わらんしな。それに今日は、サリバリがいるから問題ないさ」


「そーそー、あたしに任せなさい!」


 まあ、オレはまったく期待はしてないがな。


「ホッホッ。サリバリも相変わらずじゃな。頼むよ」


 税(薪)を払ったことを証明する割り符板を受け取る。


 今の時代のこんなド田舎。人の監視と割り符板が精一杯の不正防止。まあ、こんな狭い世界で不正なんてしたらすぐに村八分。飢饉とか余程のことでもなけりゃあ起こらないことだがな。


「ん? そういゃあ東って、ロンダのおっちゃんが運んでなかった?」


 他の家はだいたい午前中に運んでくるが、オレは混雑するのが嫌だから午後にきている。


 四日前も午後にきたのが、そのときロンダのおっちゃんも家の用事で午後からきていてガーバルじぃに東へ頼むと言われてたよーな記憶がある。


「ああ、二日前に商船が入ってきてな、そいつらに分けてんだよ」


 ん? なんかどっかできいたな。どこだっけ?


「んで、商船がなんでうちの村に?」


 岩の海岸で深いから商船クラスの船でも接岸させること可能だが、これと言った名産品もなければ買う客もいないだろうに。


「なんでも海竜に横っ腹をやられたらしくてな、修理のために寄ったそうだ」


「それはまた運がないな」


 基本、海竜は小魚狙いで臆病な生き物だ。自分よりデカイ生き物には近づかないし、泳ぎが上手い。それがぶつかるんだから不運としか言い様がない。


「まぁ、そいつらには悪いが、村のヤツらにしたらイイ余興だな」


「ガキどもらは毎日見にいっとるよ」


 ならオレもガキらしく見にいくか。商船など滅多に観られるもんじゃねーからな。

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