第13話 内職
オレが作った荷車は、積載量は一般の荷車と変わらないが、御者席を高くしていることにより、その下を荷物入れに充てている。
泥が当たるところなので丸みをつけているためそれほど物は入らないが、バケツ四つは入る容量はある。
馬にも両側に鞄を背負わせることもできるし、馬車の側面にはフックも付けているから積載量はさらに増やすことが可能だ。
オババにやる結界詰めを御者席の下に入れる。
入れると、まだ余裕があるので、また保存庫へといき、集落と浜辺にいるガキどもにやるクッキー(木箱入りのを四つ)を持ってきて詰め込んだ。
小麦=パンが当然の世界でクッキーはパンと見なされない。ましてや作り方を知る者など誰もいないので、クッキーは我が家秘伝のお菓子としている。
まあ、教えてもイイんだが、砂糖の代わりに蜂蜜を入れているので、教えたところで蜂蜜を獲れるヤツは村に一人か二人ぐらい。さらに蜂の巣と蜜を分離できる方法と手段を持っているのはオレだけなので教えても意味がない。
それにだ。クッキーを作る──正確に言えば焼けるのはサプルだけ。村に竈かまどや暖炉はあってもオーブンなどないから作ろうにも作れないのだ。
結果、クッキーはうちの専売特許。注文がひっきりなしにやってくる。だが、これを商売にしようとは思わない。
いや、物々交換しているから商売とも言えなくないが、暴利な取引はしていない。相手はガキどもだし、ガキでも用意できるものだ。正当と言えるだろう。
「お前ら、がんばるのはイイが、ちょっと休憩しろよ」
がんばる二人に声をかける。
魔力があるとは言え、まだ肉体や精神が未熟な子供である。無理したところで身には付かない。そう日頃から言ってるので二人は素直に訓練を止め、水場へと駆けていった。
そんな二人を目で追いながら家に入り、作業場(暖炉の前がオレ用の作業場だ)から今内職しているものを一式持って外の臨時作業場へと移した。
内職にもいろいろあるが、一番実入りがよく、内職しているヤツらとかぶらないものが冒険者相手のものだ。
だからと言って剣や槍、防具類を作っているわけじゃねぇ。いや、そんな専門知識や技術が必要なものじゃなく、素人──とまでは言わないが、それらを作る技術があればちゃんと売れるものを作っているのだ。
革のバッグやベルト、簡単な革靴、探索用の長棒、使い捨ての投げ槍、石矢、鉄の矢、狩り用の小型弓、斧の柄、練習用の木剣、木槍と、いろいろ作っている。
まあ、昔(前世)から木を切ったり削ったりと木工作業は好きだったし、力と結界があるので機織り機の部品を作ることだって余裕である。
実際、二台分は作って山の女衆にやって毛長山羊の毛でいろいろ作ってもらっている。
いろいろ作っているオレではあるが、ここ最近の内職は、投げナイフ作りだ。
投げナイフは武器屋でも売っているし、鍛冶屋の領分だが、この世界の投げナイフの種類が余りにも少ない。
だいたいにしてナイフを投げる冒険者が少ない。なんせ、実力社会の冒険者。魔力球や魔力矢も出せないヤツは駆け出しと見られる。
なら、そんな駆け出しに売ればイイじゃない。もともと投げナイフなんて牽制や不意打ちに使っているにすぎない。腕のある冒険者や中級の魔物には大した効果もないのだから。
だからと言って投げナイフをバカにしたら痛い目にあうよ。いろいろな種類を作れば隠し武器にもなるし、毒を塗ればオークでも殺せるんだからな。
まあ、その有用性と認知度はまだまだ低いが、この村にくる冒険者にはウケは良い。ちょっとずつだが、口コミで広がりは見せている。
なによりオレの作る投げナイフは安いときてる。なんたって土魔法で砂鉄を集めて結合するだけ。実に簡単である。練習用に石のナイフは十本で小銅貨三枚。約三百円とさらに安い。
大ヒット、とまではいかないまでも、そこそこ売れる自信はある。有用性がわかれば他が真似するが、オレは別に構わない。
元々内職の一つだし、自分で使えばイイだけ。オレが本気で投げれば竜の鱗すら砕く(だけね)。なんの問題ナッシング、である。
「今日はクナイ型のを作るとするか」
砂鉄の入った箱に右手を突っ込み、クナイの型をイメージして砂鉄を結合する。
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