第11話 生きているから楽しいんだ

「んじゃお前ら、試行錯誤……自分で考えていろいろ試してみろ。オレはちょっと仕事してくるから」


 その苦労が将来の糧となるのだ、思う存分悩みなさい。


 うんうん唸ったり、両腕を振り回している二人にそう言ってその場から離れた。


 まあ、念のために結界を張ったので万が一周辺に被害を及ぼすことはないだろうし、隠蔽の結界も張ったから村からは見えない。しばらくはほっといても大丈夫だろう。


 家畜小屋へと向かい、中から馬車を引き出した。


 荷台が畳三畳ほどの広さをした一般的なサイズの馬車だが、木の車輪ではなく首なが海竜の革を何重にも巻いた車輪であり、自動車のタイヤくらいに太くしてある。


 車体も低く、御者台もベンチ型ではなく一人乗りの座席型にしてある。もちろん、オレ手製だ。


 車体を低くしたことで一般的な馬車より安定性があり、ぶよぶよした革のお陰で振動も少ない。小回りも利く。まあ、自慢の逸品だ。


 五トンのものを持っても平気な体なので二百キロ近い馬車であろうとも軽々と引っ張ることができる。うん、イイ能力を持ってイイところに生まれたことにマジ感謝だ。


 薪を積んだ場所の前に置き、イイ具合に乾燥した薪を馬車に積んでいく。


 魔法で火を出せるヤツは田舎にも当たり前のようにいる(主に家事をするおばちゃんな)が、持続的に火を出せるヤツはいない(サプルは別な)。なので自然と燃料は薪になる。


 とは言え、いくらド田舎でもそこら辺から薪を取ってこれるほど木が生えているわけではねー。うちの村の主要産業は麦と魚の干物だ。そして、それが税だ。


 当然のごとく村の全員が麦や干物を作っているわけじゃねー。パン屋しかり雑貨屋しかり。うちのように山に住んでるいるヤツらは麦も干物も作れねぇ場所にいる。だから、パン屋や雑貨屋などは金で。山に住むヤツらは薪や炭を村に納め、野菜や肉とパンと交換するのだ。


 もちろん、それだけではやっていけるほど山に住むヤツらの暮らしは楽じゃねー。衣服や農工具、鍋はどうしても買うしかねーし、不作の年は薪や炭で代用される。


 そうなったら山の奥までいって伐ってくるしかねぇ。木だって無限じゃねーし、好き勝手に伐ってるわけでもねー。ちゃんと計画的に、なるべく安全な場所(魔物や獣がいるからな)で伐るようにしている。


 だから日々の内職は欠かせねぇ。まあ、家々で違ってくるが、山羊の乳でチーズを作ったり、薬草を採ってきたり、竹籠や背負子を作ったり、自分らにできることはなんでもやるのだ。


 うちだってやれることはなんでもやってる。作れるものならなんでも作る。それこそ家だろうと馬車であろとな。


 とは言え、誰もがそんなことできるわけじゃねー。得手不得手がある。だから山に住むヤツらは助け合う。


 もちろん、怠けるヤツは村八分になるが、どうしても働きの弱いところは出てくる。そう言うときは他の家が補うのだ。


 確かに、近所付き合いめんどクセーって思うときはある。こっちは頑張ってんのにアイツは仕事してねーって理不尽に感じるときだってある。


 人間なんだ、菩薩のような心なんて持てるわけでもねー。だが、ここで生きるのなら助け合いは必要だ。強いものがいつまでも強いわけじゃねー。


 いつか必ず弱くなるときがくる。そのときのための信頼作り。なにより、オレのような反則な力を持つ者は嫉妬や妬みを買いやすいし、一歩間違えたら化け物扱いされる。村八分どころじゃなくなる。


 そうならないためにも薪は他より多めに。肉が大量に獲れたらお裾分けを。冠婚葬祭には必ず出る。だが、弱く出たり媚びるのは厳禁だ。だからと言って強く傲慢に出るなどもってのほか。


 まぁ、これと言った正解はねぇんだが、なるべく恩は売る。頼りになるところを見せる。ときどきバカなことをする。


 田舎暮らしはなにかと大変だが、人との繋がりがなかった昔(前世)よりは何十倍も生きている実感がある。


 そんなことを考えていたら馬車から溢れそうなくらい薪が積まれていた。


「──まっ、いっか」


 幸せのお裾分けだ。オレに不満もなければ損もないしな。うん。

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