第10話 兄は威厳でできている
いやもう、君たちそれで充分じゃないの?
そう言ってしまいたいくらいうちの子たちが無駄に天才すぎる。
こんなド田舎で暮らすだけなら充分どころか十二分すぎて使い道がねーよ。
サプルの火も氷も料理したり冷蔵庫に使ったりするならそれで事足りる。それ、その両手のものをゴブリンにぶつけたらあっと言う間に黒焦げだし、一瞬で氷の彫像ができちゃうよ。
トータの風も雷も同じだ。なます切りで血が沸騰するよ。オークだって瞬殺だよ。
しかもこいつら魔力の量ときたらオレの十倍はあるんじゃないかと言うくらい豊富ときてやがる。
ほんと、なんなのこいつら? 子どもは可能性の塊? いやもう才能の塊だよ! あんちゃんの威厳とか面子とか、いろいろ危機すぎて泣きたくなるよ! 三つの能力がなかったら旅に出てるところだ!
「あんちゃん?」
おっといかん。落ち着けオレ。クールだ、クールになれ。オレはやればできるの体現者。二人の師匠。毅然と、余裕を持って構えろ、だ。
「ふむ。ギリギリ合格だな」
嫉妬じゃないよ。調子に乗らせないことも兄として師匠としての思いやりだからねっ。勘違いしないでよねっ。
「さて。今日教えるのはイメージコントロールだ」
「……イメ……? なんなの、それって?」
「?」
首を傾げる二人。クソ! また今世にない言葉が出てきやがったか。
八歳児と五歳児にわかりやすい言葉で教える難しさも参るが、この今世の言葉の少なさにはほとほと参ってしまう。
代用する言葉がないので前世の言葉になってしまうので村の者と会話するのも一苦労である。『ほんと、この世はマジつらたん』とか言ったら変な目で見られたよ。いや、前世でも同じか。
「ん~っと、あれだ。頭の中で思い浮かべて思い通りに動かせるようになる訓練だ」
いまいちわかってない顔をする二人。教育、マジつらたん。
「まあ、やって見せるのが一番か」
人差し指を上に向け、指先に魔力を集中させ、火を生み出した。
「お前らは魔力を火や風に変換できるようになったが、そんなものは初歩の初歩。産まれたばかりの山羊がやっと立てたようなもの。魔術道を一歩歩んだにすぎない」
威厳の道も一歩から。積み重ねがあんちゃんをあんちゃんと知らしめるのだ。
「まずはサプルからな」
言って、人差し指を左から右に移動させると、火の線ができた。それを下に移動。今度は右から左に。そして上に移動させた。
火で正方形ができあがる。
「以前、水袋で体から魔力を出すやり方を教えたな。それの応用……やり方を変えるとこんなこともできる。トータ。お前、旋風を飛ばしてみろ」
右手に旋風を起こしては見たものの、どう飛ばしてイイかわからず右腕を振り回している。
「じゃあ、見てろ」
火の正方形を消し、今度はCDくらいの薄さをした魔風斬(某ツルツル頭のアニメキャラから頂きました)を生み出した。
それをスライダーで投げると、青空に向けて飛んでいった。
「と、まあ、訓練すれば火で空中に絵を描いたり、風を飛ばすこともできるって訳だが、それをするために頭の中で火や風をどうしたいのか考え、魔力を操るかを考えるんだ。まずは自分たちで考えてやってみろ」
「え、教えてくれないの?」
「バカたれ。できないことを知るのも訓練。失敗するのも訓練。ゴブリンじゃねーんだ、まずは自分の頭で考えろ」
お前らに教えたら簡単にでき──ゴホン。妹弟よ。千里の道も一歩からであるぞよ。
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