第5話 朝のお仕事

 さて。清々しい習慣を終えたら畑と家畜の見回りだ。


 我が家の主生産物はラムノだが、それだけでは生活はできない(世間的体裁と言う意味で)。


 田舎とは言え、貨幣はそれなりに流通はしているが、基本、ド田舎は自給自足と物々交換である。


 我が家の前の畑は三アールくらいで、根菜類(芋にカブ)に季節物を植えている。まあ、それだけでは生きていけないので隣んちの畑を手伝っているよ。


 この世界(時代)に輪作と言う言葉はないが経験則で同じものを植えてると実のできが悪く土地が枯れると言うことはわかっている。


 そのため、毎年違うものを植えたり休息地にしたりしているが、肥料と言う知識がないために回復が追いつかず、作物の実りが悪いのが現状だ。


 しかし、オレには土魔法の才能があり、前世の記憶があり、周りには山に海がある。ましてや昔(前世)では農家の息子。肥料作りは熟知している。なので我が家の畑はいつも大豊作……なもんだから角猪やら青鹿が襲撃してくるんだよ。


 もちろんのこと柵や土壁で囲んであるし、罠も仕掛けてはいるが、きゃつらも生きるのに必死。幾多の障害を乗り越えて侵略してくるのだ。


 さらに困ったことに罠に嵌まった角猪や青鹿を狙って灰色狼がきて柵や罠をメチャクチャにしやがるのだ。


 まあ、何匹かは罠に嵌まって毛皮とかゲットできるから損はしないのだが、手間が掛かるのが困ったもんだ。柵って作るとなると意外とたくさんの工程があるんだからな。


 あと、害虫も厄介だ。農薬なんてない世界(時代)で虫を見つけたら潰すしかないのだ。


 本当なら結界で害獣も害虫も簡単に排除はできるのだが、世間の目と言うものがあるし、楽過ぎるのも生きている感謝を忘れてしまいそうになるので極力は使わない。まあ、他では使うけどな。


 まずラムノを見る。枝葉に不審なものは見て取れないし、虫もいない。うん。順調のようだ。


 畑にいくと、オカンが雑草をむしっていた。


「オカン。畑はどうだ?」


「栄養ありすぎて雑草がいっぱいだよ」


「アハハ。そりゃ山羊どもが喜ぶな」


 なんていつものやりとりをして家畜小屋へと向かう。


 だいたいのこの村の農家は家畜も飼っている。


 村の中心に住む麦農家は畑を耕すための牛(水牛っぽいやつ)や鶏(チャボっぽいもの)を飼い、山側の農家は乳を搾るための山羊(牛くらいデカい)や木材を運ぶための馬(短足だが馬力は元の世界の馬以上だ)を飼っている。


 我が家も他と同じく馬と山羊を飼っているが、もう一種、毛長山羊と言うものを飼っている。


 二年前、カムラ王国からくる行商人から買った毛長山羊は、寒い地域に生息する山羊だ。


 この長毛山羊種は、毛が丈夫で糸にしたり弓の弦にしたりと使い勝手がよく、乳も出せば肉も旨い。繁殖力も強いし雑草だけで育ってくれる優れもの。


 番つがい二組で金貨三枚(元の世界の金額にしたらだいたい五、六十万くらいだ)と高額だったが、買って本当によかった。こんな役に立つ家畜、他にはいねーぞ。


 密かに土魔法と結界で補強した家畜小屋の扉を開き、十七匹の毛長山羊、乳取り用の山羊が六頭、馬一頭に二十匹の鶏を出した。


 牧場に出した家畜を一匹一匹具合を見る。


「うん。皆元気そうでなによりだ」


 満足して家畜小屋へと入る。


 小屋とは言ってるが、山を掘って広げてあるのでテニスコート二面分はある。


 家畜用に区切ってはあるが、柵で閉じ込めたりはしていない。この中が安全とわかっているし、快適でもあり、清潔でもあり、水も餌も豊富に用意してある。わざわざ争う理由もない。と、問題もないのでそう結論している。


「おっ、今日も元気に卵を産んでるな。結構結構コケッコー」


 籠に産んだ卵を集め、扉の近くの棚に置き、山羊や馬の寝床を掃除する。


 五トンのものを持っても平気な体のお陰で家畜小屋の掃除は一時間くらいで終了。マジ、元の世界の神様に感謝である。


「さて。朝飯にするか」

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