第4話 二つの習慣
オレには毎朝やる二つの習慣がある。
一つは朝日に向かって二拍一礼することだ。
別に昔(前世)が信心深かったってわけじゃない。これはこの世界に生まれ、六歳のころからやり始めたものだ。
この世界は弱けりゃ死ぬし、死がすぐ横にある。まさに弱肉強食だ。
警察機構もなければ医療が発達しているわけでもねー。
剣と魔法の世界らしく魔物は当たり前のように出没するし、盗賊も珍しくもねー。天候が悪くなれば簡単に食料危機だ。
なのに税は一定ときてやがる。オレが生まれてからはないが、ちょっと昔までなら普通に娘を売るってこともあったと聞く。
オレには三つの能力があるとは言え、順風満帆に生きてこれたわけじゃねー。死にそうなことにあったのも一度や二度じゃねーし、人が簡単に、理不尽に死ぬところなど六回は見た。
ここは生きるには厳しいところだ。そんな世界(時代)だから、昔(前世)を覚えているから、わかるんだ。生きている幸せ、生かされているありがたみが。
そう思う度に感謝したくなる。形にしたくなる。昔(前世)を忘れぬために、昔(前世)のようにならないために、今を生きている証しが欲しいのだ。
パンパン!
「生きていることに感謝を。そして今日も生きられますように」
深々と一礼する。
ちなみに雨が降ろうと嵐だろうと欠かしたことはない。オレには自由自在に操れる結界があるから問題なしである。
そして、二つ目の習慣は、オトンの墓にお参りすることだ。
オトンの墓は家を正面から見て右側、大きなレニの木(柳の木っぽいものの下にある。
かまぼこ型の石板にオトンの名前を刻み、力任せに剣を刺しただけの墓である。
前世の墓と比べたら質素なものだが、この世界の可もなければ不可もない村にしたらまるで英雄の墓並みに立派な墓だそーだ(行商人や冒険者談)。
まあ、オレにしたらオトンは英雄なので特に反論はねー。
オトンはこの村で唯一の専属冒険者であり、剣も魔法も使え、オーガとも互角に戦えるほどの腕を持っていた。
だが、そんなオトンでもオークの群れには勝てず、追い込まれて嬲り殺しにあった。
昔(前世)のオレより若く、父親とも思えなかったが、それでもオレを守り育ててくれ、オレたちやオカンを愛してくれた人だ。
生きていること以上に感謝もあれば愛情もある。その生きて来た証を証明するためなら雨も嵐も苦にはならない。
パンパン!
「オトン。オトンの息子に生まれて本当によかったよ」
一礼はしない。ただ、笑顔を見せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます