第3話 農家の朝は早い

「あんちゃん、朝だよ」


 妹の声で微睡みの世界から覚醒する。


 いつもより早く起きて天井を見てたらいつの間にか昔(前世)を思い出していたようだ。


 この世界に生まれて早十年。生きることが楽しくて昔(前世)を思い出すこともなかったが、生活に慣れてきたからなのか、それとも前世に未練でもあるのか、前世の記憶が未だに色あせないでいた。


 まあ、どっちにしろ今さら戻れるわけじゃあるまいし、今日も現世を生きるとするか。


 黒狼の毛皮の毛布から出て大きく伸びをする。


「あんちゃんが寝坊するなんて珍しいね。具合悪いの?」


 もう陽が上がったようで窓から朝日が漏れていた。


「いや、いつもより早く目覚めてな、ぼーっとしてたら二度寝しちまったよーだ。具合は悪くねーから心配すんな」


 二つしたの妹、サプルを安心させるためにニカっと笑って見せた。


 オカンに似て美人ではないが、よくできた妹であり、よく働く妹である。


 このまま育てばイイ嫁さんになることだろう。まあ、よすぎて夫は大変だろうがな。


「オカンは?」


「もう畑に出たよ」


 農家(一応な)の朝は早い。陽が昇ると同時に目覚め、畑や家畜の世話や朝食の準備と忙しい──のは他所様の家のこと。


 うちは自分ちで食う分の畑と家畜しかいないし、うちの主生産物は果樹。山から持ってきたラムノと言う柿っぽいものを干したものを出荷して利益を得ている。


 今は春先なのでそれほど仕事はない。と言うか、肥料を与えたり剪定するくらい。自然のままに実らせているにすぎない。


 なのに早起きして働くのは、由緒正しき農家の娘だったので早起きが習慣であり、世間体のためだ。


 我が家は村の外れにあるとは言え、近くには街道があり、集落から丸見えの山の中腹にあるのでなにもしてないとなにを言われるかわかったもんじゃない。妬みで村八分にされたらたまらんからな。


「トータは?」


「とっくに起きて山にいっちゃったよ」


 トータとは一番下の弟で五歳。ヤンチャですばしっこくて、冒険者に憧れる我が家の肉捕獲担当だ。


「もういったのか?」


 五歳とは言え、動けるなら働くのがこの世界、いや、この時代の常識だ。三歳で畑の草むしりなんてよくある光景だし、奴隷ともなれば朝から晩まで川から水を汲んでくるとことも珍しくないそうだ。


「あんちゃんが新しいナイフなんて渡すからだよ。トータ、ナイフ抱いて寝てるんだから」


 裏山掘ってたら銀ぽいものが出てきたから、試しにナイフを作ってみたら思いの外上手くできたのでトータに渡したのだ。なんか魔力の伝わりがよかったのでな。


「まあ、五歳とは言えトータも男だしな、そーゆーもんさ」


 オレも昔(前世)は親に買ってもらった変身ベルトをして寝たもんだ。


「さてと。今日も元気に働くとするか」

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