第6話

今日は抜けるような晴天だった。

土曜日で特に予定もなく、昼前までだらだらと過ごした。ここ数日、この空の様に心が晴れることは無かった。


気晴らしに出掛けることにした。いつもより大きな音で音楽をかけ、車を走らせた。駅から離れたコインパーキングに車を停めて、駅前を目指す。

途中通りかかったあの空き地は、工事用の目隠しがされ、基礎工事が始まっているようだった。


適当に昼食を済ませようと、空いてる店を探すが、さすが土曜日、どこも混んでいた。諦めて、よく行くラーメン屋に向かおうとした時、スマホが鳴動した。


──ダイキからの電話だった。


先日の一件で、飲み会の写真を眺めていて、ふと湧いた疑問をぶつけるチャンスだと思った。


「もしもーし」

『あ、アキト?今大丈夫?』

「平気だよ。どした?」

『この前の飲み会の時、結構写真撮ってたよな?あれどうした?』


ダイキの方から、あの時の話を振ってきた。そのことに驚き、少し身構える。それとどことなくダイキの声のトーンが低いことに気付く。


「まだ保存してあるよ」

『あれカナに送った?』


いよいよこれは何かあったのだと悟る。カナとは秘密にすると約束していたので、往なしつつ、質問をしてみることにした。


「少しな。てかダイキ、カナと何かあったのか?」

『………いや、なにも。』

「ほんとか?にしては今の間はなんかおかしいだろ。話してみろって。」

『実は…、カナに浮気がバレた…。』

「はあっ!?」


実は少しだけ可能性として考えてはいたが、実際にそうであると判ると、驚きを隠せなかった。


「浮気ってお前…、マジかよ…。」

『最低だよな…。もう…ほんと…。』


電話越しで消え入りそうになるダイキの声に、悲痛なものを感じた。しかし、カナに対し少し芽生えていた感情のせいか、怒りに似たものが沸き立ってくる。


「あれだけ大好きだって言ってたカナを裏切るなんてどういうことだよ?」

『……ッ……ズッ。』


ダイキが電話の向こうで、啜り泣いているのが分かる。勿論、後悔しているのだ。そんな友人に追い討ちをかけてしまったことに、少なくない罪悪感を感じる。そして少し冷静になった頭に、ある閃きがあった。


「…とりあえずお前んちの近くのファミレスまで行くからこいよ。」

『……ああ。わかった。』


急いで駐車場まで戻り、車を走らせる。15分程で着いた。昼過ぎとはいえ、土曜日のファミレスは賑やかだった。そんな店内の1卓に、そこだけ照明が消えていると感じるほど、暗い空気を纏ったダイキが座っていた。


「おまたせ。」

「おう。」


店員がすかさず水とおしぼりを持ってきたので、ドリンクバーを2人分注文した。

席を立ち、コーヒーを2杯持って席に戻る。


「ありがと。助かる。」


力なくダイキが言った。

それがコーヒーを持ってきたことになのか、話を聴きに来たからなのかは分からなかった。


「さっきはキツいこと言って悪かったな。」


「いや、お前の言うとおり。俺はカナを裏切ったんだ。」


「で、まさかとは思うけど相手は…ユキ…じゃないよな?」


「えっ…、お前も気が付いてたのかよ…。」


「やっぱりか…。撮った写真見てて、カラオケでお前とユキが目ぇ合わせてるのがあったんだよ。それが少し気になってたとこに、浮気って聞いたらピンときた。」


ただ、実はここに来る途中にその写真を見返し、違うものも感じ取っていた。


「でもかなり罪悪感感じてたんだろ?カナにもユキにも。なんだかんだお前、優しいもんな。」


「やめろ。…そりゃ勿論な。でも今更何を言っても言い訳にしかならないし。」


「まぁな。どうせお前の中途半端な優しさが、ユキもカナも傷つけたくないって思いになって、結果二股になったんだろ?」


「…お前…、厳しいことズバズバ言うな。」


「当たり前だろーが。でもそれが本音だろ?」


「まぁな。」


なんとなく理解できた。ダイキはどういうタイミングか分からないが、ユキに告白されたのだろう。

ダイキも少し落ち着きを取り戻してきた。


「で、お前はどうしたいんだよ?」

「カナとは続けたい。」

「ユキは?」

「ほんと今更だけどな、しっかり話して別れるつもりだった。」

「そっか。じゃあ結果的に二人とも傷付けるわけだな。」

「お前、ほんと容赦ないな。」

「お前がユキに走るんなら、そしたら傷付くのはカナだけで、俺がカナを慰めればそれで済んだのに」

「マジでやめろ」

「まぁまぁ、俺は友達思いだから、しっかり二人の関係修復に尽力しますよ」


少し胸が痛む。しかしコーヒーで飲み下し、この感情を捨て去る決意をする。


「…でもほんと…どうしたらいいか。」

「とりあえず会って話すんだな。そこに助太刀するよ」

「ほんとありがと!なんとか頼む!」

「任せとけって。んじゃあとりあえず、ここは奢れよ」

「勿論、奢らせて頂きます。」

「うむ!」

ダイキが低頭し、テーブルに顔を伏せる。

俺はテーブルの呼び出しベルを押した。店員が来る。


「すいません。柔らかサーロインステーキのライスセットとシーザーサラダとマルゲリータください!」


容赦なく注文をする俺を、ダイキはなんとも微妙な表情で見つめていた。


注文した料理がテーブルに揃ったところで、それをスマホで撮影した。すぐにSNSにアップしコメントを打つ。


『まさかのご馳走!大丈夫!全部任せろ(笑)』


それを自分のスマホで確認したダイキは、微笑んだ。


「ありがとな。…でも俺にもピザくらい食わせろ。」

「2切れまでな。」


2人で食べ始めると、先程の投稿にハルキからのリプレイ通知がきた。


『飯テロか!独り占め反対!俺も食いに行く!!』


それを見て、2人で大笑いした。

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