第4話
時計は午前2時を回ろうとしていた。
「やっと着いた…。」
ハルキを家まで送り届け、漸く自分の部屋ににたどり着く。酔いもいつの間にか、少し醒めていた。
最初の店で気掛かりなことがあったが、最後のカラオケまで含め、努めて明るく振る舞ったので、どっと疲れた気分だ。
冷蔵庫から水を取り出し、一口飲んだ。冷たい水が酔いを一段と醒ましていく。
カナに頼まれて、撮りに撮った100枚以上の写真を見返す。その中の1枚を選択し、液晶に大写しにする。
それは、最初の店で集合写真を撮る前に、アングルを決める為に試し撮りをしたものだった。
そこに写っていたのは、主役のはずなのに、賑やかな雰囲気の中で、少し俯き、寂しそうで哀しそうな顔をした、カナの姿だった。
(カナのやつ、なんでこんな顔を…。)
すぐには気付かなかったが、小用の為に席を立った際に、写真を見返していて気が付いたのだ。
ただ単に、一瞬の表情でそう見えただけかもしれない。そう思ったが、そこからカナの様子を注視していると、やはり何かしら違和感があったのだ。
ふと、カナから貰った小袋を思い出し、ボディバッグから取り出す。
そこには、キレイに折られた五千円札と、同じサイズに折り畳まれた紙が入っていた。
『ありがと。助かる』
開いた紙に書かれていた言葉。やはりそこにも違和感を感じた。普段のカナの口調を考えると、何故だか少し陰を感じる。
(あいつ、なんかあったんかな?今回の召集も急だったし。)
気になったが、時間を考えると訊く訳にもいかず、シャワーを浴びて寝ることにした。
───
もうすぐ11月というだけあり、流石に朝は冷えた。
スマートフォンは勤勉にアラームを鳴らしていた。ベッドボードで喚きたてる相棒を捕まえ、アラームを停止させる。
2回はスヌーズをスルーしていたようだ。
慌てて飛び起きると、酔いの残滓が軽い頭痛を走らせる。
鈍い痛みと共に、昨晩の思考がよぎるが、仕事に遅刻するわけにもいかず、早々に身支度を整え、買い置きの野菜ジュースを飲んで家を出た。
仕事を終え、部屋に着くとまだ午後7時前だった。今月はノルマを達成しているので特に残業せずに済んだ。
部屋着に着替え、買ってきた唐揚げ弁当とレモンサワーをテーブルに広げる。
唐揚げをつまみながらスマホを弄る。
まずは昨日の写真の中で、醜態を晒してしまったハルキの画像を2つ選択し、グループトークに送信した。コメントも付ける。
『ハルキ選手の見事なヘッドスライディング&パントマイム術』
それは、カラオケ店の階段を上る際に豪快に転んだ写真と、カラオケルームのドアを開け損じて盛大に激突した写真だった。
(これで怪我ないんだから、ある意味才能だよなぁ。)
内心、笑いながら感嘆する。
そして本題とばかりに、昨日撮った写真をまとめて、カナと共有化したアルバムとしてアップロードする。
そのままカナにメッセージを送る。
『昨日の写真まとめといたよ~!あとカナ何か悩み事でもあるの?』
10分程すると、絵文字を織り混ぜた返信がきた。
『ありがと!助かったよ~!悩み?特にないけど何で?』
『いや~なんか雰囲気が違ったというか、たまに暗い顔してた気がしたからさ』
既読にはなったが、すぐに返信は来なかった。
およそ5分後、通知がきた。
『気のせいだよ!てゆーかアキ、そんなにあたしの事気になっちゃった?惚れたな?』
これもまたカナが使わない類いの返しだった。そこに虚勢を感じたが、深く詮索はせず話しを終えることにする。
『馬鹿言え(笑)まぁならいいんだけどさ。なんかあればまた言えよ~!』
『ありがと。気を遣わせてごめんね!』
カナに対して心配以上の感情が、うっすらと湧き始めている自分に気付く。
(阿呆か、俺は…。)
自戒の念を込め、内心で自虐する。
温くなり始めていたレモンサワーを一気に飲み干し、一息つく。しかし、胸のつかえは飲み下せなかった。
結局、再び昨日の写真を見直し始めた。
─────
今日は1日仕事に身が入らなかった。
さすがに昨日のうちには、アキトから写真は来ず、18時過ぎに帰って来てからもソワソワとしていた。
通知音が鳴る度に、スマホに飛び付き確認をした。しかし、目当てのものではなく、そっと机に置く。
それを3回程繰り返した時、帰って来て40分以上も仕事着から着替えてすらいないことに気付いた。
(余裕無くなりすぎだろ、あたし)
自分に毒づく。少し冷静になり、漸く部屋着に着替え終える。ソファに座ったところで、夕飯のこともすっかり忘れていたことに気が付く。深いため息。
時計を見ると、19時を少し回ったところだった。冷凍パスタを買い置きしてある事を思い出し、冷蔵庫に向かう。
すると、再び通知音が鳴った。慌てて戻りスマホを確認すると、アキトからのグループトークへの送信だった。
ハルキの2枚の写真とアキトのコメントに、昨日の事を思い出し、思わず吹き出す。
これは、と待っているとアキトとのトークルームにアルバムが作成された通知がきた。
─────
アキトとのやりとりを終え、一息つく。
(アキには、なんか感づかれたかな)
アキトとのトークルームで、アルバムにされた写真達を確認していく。
何気ない飲み会風景の写真を見進めて行く内に、予想していたものが目に留まり始める。
(あたしってこんなに「女のカン」が鋭いほうだったのか…)
締め付けられている様な胸の内で、力なく自嘲する。
そして、カラオケの受付待ちをしていた時の1枚。私とミズキが受付をしている間に、皆が屯している様子を、アキトが斜め後ろから撮影したものだった。
その1枚で、悪い予想が確信に変わった。
(確定…かな…。これは。)
ふと、スマホの画面に水滴が落ちた。それを指で拭うが再び落ちてくる。それは2つ、3つと増えていく。
濡れた画面に映っていたのは、受付前で屯する中で、会話をしている風でも無く、やや距離を起き、視線を合わせる二人の姿だった。
ダイキとユキの─。
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