第3話

「いらっしゃいませ。ご予約のお客様でしょうか。」


T駅近くのダイニングバーの女性店員が、笑顔で迎えてくれた。

苗字を告げ、ダイキと共に個室の少し大きめの席に案内される。

するとそこには、時間に割と律儀なアキトが既に座っていた。


「おう!久し振り!」

「アキ、久し振り!やっぱ早いねぇ。」


ダイキと共に声を掛ける。


「おっす!お二人さんおひさ~。」


と、先日のプレゼント相談のやりとりがあったからか、アキトはニヤニヤとこちらを見ながら小さく手を振る。


「なにニヤニヤしてんだよ。」

「いや~、先日カナに軽くのろけられたばっかだったからさ~。」

「うっせ。大体、こいつにそんなに色々と買ってやれる財力はねえからな。」


ダイキは先日のSNSでのリプライのやりとりのことだと思い、笑いながらアキトと掛け合いをする。

ふと、ダイキはスマホを取り出し画面を一瞥した。たぶん時間を確認したのだろう。


「まだ時間あるし、ちっとトイレ行ってくるわ。どっちだったっけ。」

「確かあっちのカウンターの奥だったよ」


ダイキが席を立ち、アキトと二人になった。


「しかし今回はカナの急な誘いだったけど、よくみんなOKだったな」

「ごめんね~。なんかアキとやりとりしたら懐かしくなっちゃって。さすがにユウマは無理だったけど。せっかくの2周年だから、みんなに祝わせてあげようと思って」

「あーはいはい。ごちそうさま。おめでとー。」


白けたふりをしたアキトが、視線を右上に泳がせながら、棒読みの祝辞を述べた。そんなアキトに向け、両手を合わせて小声で言う。


「それでアキにお願いなんだけどさ。その新しいスマホでカメラマンしてくれない?」

「コンシェルジュの次はカメラマンかよ。」

「いずれ来る結婚式用に材料用意しておきたいのよ。みんなが飲んでる自然なとこをガンガン撮って!お礼は今日の代行代で。」

「やります!是非やらせていただきます!」

「よろしい!ちなみに驚かせたいから、ダイキには内緒でね。」


用意しておいた、小袋をアキトに渡す。

それをわざとらしく、そそくさと隠すアキトの姿に、思わず吹き出す。

それから少しして、トイレに行っていたダイキが、ユキとミズキを連れて戻ってきた。


「あ!ユキ、ミズキ!今日は急に誘ってごめんね~。」

「大丈夫だよ~。あ、アキも久し振り!」


ユキがアキに手を振る。


「おっす~。二人は一緒にきたの?」

「おっす!そ、ユキに乗っけてきてもらったの。」


ミズキが元気良くアキに答える。

すると、そこに丁度ハルキも到着する。


「みんな久し振り!あれ?時間ピッタリなのに俺最後?」

「時間ピッタリなら、ハルキにしては上出来よ!」


予定の6人が揃ったところで店員を呼び、乾杯の飲み物を注文する。

店員が注文を取り終え、居なくなったところで、アキトがスマホを構えて宣言をした。


「今日は俺がこのニュースマホでバンバン写真撮るからな~!良い写真はあとで各自に送るよ~。もし恥ずかしい姿を晒した場合は、その写真はユウマにもわかるようにグループトークに貼り付けるから!」

「出た!自慢のスマホ!なんかカメラスゴいらしいじゃん」


ミズキがすぐに食い付いた。そこから、みんなが談笑を始める。


(アキナイス!)


アキトの自然なカメラマン宣言に、内心喝采を送る。

乾杯の飲み物が運ばれてきて、各自に配られる。私は、自分のノンアルカクテルを持ち立ち上がった。


「えー、皆さん。今日はあたしとダイキの2周年前祝いにご参加いただき、ありがとうございます。」

「飲みたかっただけだぞー。」


すかさずハルキの茶化しが入る。


「知っとるわ!…えー、急な誘いにも関わらず、みんなが来てくれてホント幸せ。ありがとね。」

「熱くて飲み物が温くなるぞー」


今度はアキトが茶化す。


「うっさい!んじゃー、もう乾杯!!」

「「「かんぱーい!!」」」


グダグタの音頭とは正反対に、みんなの声が揃う。

私の密かな胸の内も、賑やかな談笑に掻き消されていった。


────


「じゃ!ユウマも入れて年末にでもまたやろうねー!」


深夜1時。飲み会の後のカラオケも終わり、酔いつぶれたハルキを頼んだ代行で乗せていったアキトを見送る。


その後、ユキ達とも別れ、ダイキと駅から少し離れたやや古い立体駐車場に向けて歩きだす。


「楽しかったねー!みんな変わらないし」

「そりゃ3、4年じゃそれほど変わんねぇだろ」

「この辺の景色はガンガン変わってくのにねぇ」


ちょうどアキトがSNSにアップした空き地の脇を通りかかる。


「ここに出来る駐車場も安いといいんだけどね」

「そりゃモールで買い物すれば、安くしてくれるだろ」

「じゃあやっぱり毎回しっかり買ってもらわなきゃだね」

「なんで買ってもらう前提なんだよ」


笑いながら、そんなやりとりをして歩いていると駐車場に到着する。

エレベーターに乗り込み、4階のボタンを押す。

二人ともスマホを弄り始め、終始無言のままエレベーターが4階に到着する。


「ちょっと待ってて」


エレベーターから少し離れた車の元へ歩く。

運転席に乗り込みエンジンをかける。車をエレベーター前まで着けると、ダイキが助手席に乗ってくる。


「んじゃ運転よろしく!今日はうち泊まってく?」

「んー明日仕事だし…、今日はやめとくよ。」

「えー…さみしい…。」


やや甘えた声で嘆くダイキに、少し胸が痛くなる。


「どうせすぐ二人で2周年のお祝いやるんだから、それまで待ちなさい!」

「はーい」


会話をしながら、20分ほどでダイキのアパートに到着した。

お礼とキスをしてダイキは車を降りた。そのまま見送りを受け車を走らせた。

車内に残るアルコールの匂いを飛ばす為、少し窓を開ける。


窓から入ってくる深夜の冷たい空気が、身体を縮こまらせた。

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