第2話

「…ごめん。虫がいい話だけど、何とか…やり直せないかな…。」


「もう無理だよ。別れよ…?」


悔しさと悲しさで震える口元をマフラーで隠し、なんとか言葉を返す。

踵を返し崩れそうになる脚を叱咤し、涙で歪んだ視界を歩き出す。

握りしめた手が痛い。

そして、それ以上に痛い胸の痛みを引き摺りながら、その場を後にする。


ダイキと付き合い始めて、2年と少し。

あの1枚がきっかけで別れることになるとは思わなかった。



――――



良く晴れた日曜日。

少し遅めの朝食をとりながら、スマホでニュースを眺めていた。

特に惹かれる見出しも無く、ひたすら画面をスクロールしていると1件の通知がきた。

それは、友人のアキトからのSNSのリプライ通知だった。


昨日の夜、スマホ更新をしたアキトのSNSの投稿に気が付いた。

そしてそれに反応したハルキとのやりとりの中でアップされた、空き地が写った画像に「いいね」とリプライをしたのだ。

その場所は、高校時代によく遊びに行った駅周辺の一角だった。

二人のやりとりも相まって懐かしくなり、リプライ送ったのだ。

アキトからは普段なら早めに返事が来るのだが、今回は夜の内には来なかった。


『カナ久し振り!どうせ完成したらあそこのショッピングモールをダイキとのデートスポットにするんだろ(笑)』

『もちろんだよ~!ガンガン買ってもらうし(笑)』


アキトのアカウントは鍵アカになっていて、フォロワーはほぼ知り合いなので、プライベートな内容もどんどん話す。

もちろんフォロワーにはダイキも入っているが。


『昨日は寝落ちしちゃってさ(笑)スマホ更新でテンション上がり過ぎた反動かな。』

『子供じゃん(笑)まぁ気持ちはわかるけどね』

『カナとダイキはそろそろ2年だっけ。あの時はカナが俺らの誰かとくっつくと思わなかったよ(笑)』

『だよね~(笑)』


高校時代のダイキはアキト、ハルキ、ユウマとよくつるんでいた。

私もユキとミズキの3人のグループで、その4人とよく遊んでいた。


ダイキに伏せたい内容の会話をすべく、DM(ダイレクトメッセージ)に切り替えて返信をした。


『DMでごめんね!ダイキと2周年でプレゼント交換的なのするんだけど、アキは何貰ったら嬉しい?』


やや不躾な内容だったと、送ってから後悔したが、すぐに返事が来た。


『俺は二人のコンシェルジュ扱いかよ(笑)ん~俺なら財布とか実用品がいいかな』

『財布はこの前の誕生日であげちゃったよ・・・(泣)』

『じゃあ腕時計とかは?あいつ値段とかブランドよりデザイン重視だし』

『それだ!さっすがアキは頼りになるよ!ありがと!』

『お世辞はいいよ(笑)とりあえずお礼は可愛い娘を紹介で!』

『わかった。今度マックおごるよー』


一連のやりとりを終え、朝食のトーストの残りを口に詰め込む。

アキトとのDMの画面を開いたまま、食器の片づけを始める。

洗い物を終えてから、昨晩感じた疑問を投げかけた。


『そういえばなんであんな写真撮ったの?てかなぜにあそこ?(笑)』


少し間を開けて、返信が来た。


『ホント適当に撮っただけ(笑)カメラ構えてぐるぐるして適当にシャッター押した』

『理由ないんかーい(笑)』


軽く拍子抜けをしたが、腑に落ちたので会話を切り上げようと、お礼の文を打ち込んでいると、


『でもなんかこの写真で考えさせられた感じ』


と、アキトにしてはふざけた要素のない返事が来た。

少し気になり、打ちかけの文字を消し入力しなおす。


『というと?』

『うまく言えないんだけど、「いい写真」とは的な?(笑)最初に上げた写真は見栄えはいいけど中身がなくてさ。適当に撮ったはずのこっちの写真の方が色々見えたというか。』

『あー、なんとなくわかるかも。』


自分も「映える」と感じた写真を撮り、暫く経ってから見返したときに、「何だっけこれ」となったことがあった。


『なんて言ったらいいのかなぁ。あとの写真の方がその場所の本質を撮れてたというか。』

『言いたいことはわかる気がするよ。てかアキも難しい事考えられるようになったんだねぇ(しみじみ)』

『ほっとけ!でもなんか人に言えてすっきりした気がするわ。恥ずかしくて表向きには言えないからDMでちょうど良かったよ(笑)』

『じゃあこれでお礼はチャラだね!それじゃ早速時計選びに行ってくるよ!ありがとね!』

『ぬ、しゃーねーな。んじゃまたな~』


会話を終え、時間を確認する。10時10分。

「写っているものの本質」という少し面白そうなテーマにそそられ、過去の写真を見返したくなったが、何とか踏みとどまり着替えることにした。



少し離れた郊外のショッピングモールに着き、さっそく腕時計の専門店のテナントに入る。

ダイキは黒基調に赤や青の差し色が入った、クロノグラフのモデルが好きなのでそのモデルのゾーンを重点的に探る。

「ANGEL CLOVER」というブランドのダイバーズウォッチが目に留まり、手頃な価格だったので即決で購入した。


買い物を終え、そのままショッピングモールのフードコートで、昼食代わりにドーナツとコーヒーを注文した。

空いてる席を見つけ座った。

時計の入った紙袋を隣の椅子に置き、コーヒーを飲みながらスマホを弄る。


ふと先程の「写っているものの本質」という言葉を思い出し、過去の写真を流し見ることにした。

今朝のアキトとの会話も懐かしく、前の機種から移してあった、高校時代の写真を久し振りに見返す。

笑顔でポーズをとっている集合写真が多く、眺めているうちに、自然と笑みがこぼれた。


(あれ…?)


1枚の画像で手を止めた。

そこに写っているものにズームをかけて、暫し注視する。


「これって…。やっぱり…。でも、まさか…ね…。」


そう独りごちながら、ふと湧いた疑念が気のせいであることを信じ、ある意識を持って再び画像を見返す。


(え…。これも。…これもだ。)


否応なしに襲ってくる悪い想像に、手が震えた。

そして、認めたくないがその想像が、高い確率であり得ることだと感じた。


(確かめなくちゃ…。)


その方法を模索すべく、暫し逡巡する。そして閃く。


「写っているものの本質…。」


そう呟き、スマートフォンのSNSアプリを起動し、グループトークルームをタップした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る