第4話 張り子の魔人

 『あかん死ぬかもしんない』


心中でそう独白する。衝動にかられ勢い勇んで殴りかかったものの所詮は戦闘の素人、護身術は嗜んでいたが本気の殺し合いは経験の無かった昇は思いっきりスタミナ配分を間違えていた。

素人ゆえに護身術の相手を無力化する技も殺し合いの場では使えない、ましてや相手は複数且つ自分と同じ人外の力を持った存在。

当然手を抜くなんてことも出来ず常に全力で攻撃を加えているので如何に人外レベルのスタミナとはいえ切れる。相手も化け物なのだから当たり前の話だ。

本来ならとっくに形勢逆転されているのだが・・・。


『まだ混乱が抜けきっていない・・・統率を取ろうとする者もいないか、やっぱ初撃でぶっ飛ばした奴が指揮官だったんだな。そうじゃなかったら混乱も長続きしないだろうし』


昇は戦場に登場した時に叫び声を上げながら攻撃を加えたシルバーのオールバックスタイルの髪形をした眼鏡の男性を思い浮かべる。

テレーズ・ブルムを人質に取っていた男で明らかに調子に乗っている様子だったのだが攻撃が決まる寸前で反応していた。

昇自身も奇襲といっても暗殺のプロでも何でもない自分が完璧にこなせるとは欠片も思っていなかったがあのタイミングで、急所を防ぐ程度の対応だったとはいえ防御されたという時点で昇にとっては驚愕物だった。とはいえ派手に吹っ飛んだので戦闘不能にはなっているようだが。


『まさかアレに反応するとはな、というか攻撃受けてから驚いてたし身体や本能が無意識に反応した感じだったな。意識より先に身体が動く程練度を積んだ人間によって指揮された部隊・・・うーん相手したくないな』


改めて自分の幸運を噛みしめる昇。もし人質に取っていたのが別の人物だった場合、早急に建て直されいたことは間違いなく、その場合自分の弱点が露見する可能性が高かった。昇自身も戦っている中で気づいた弱点、それは遠距離手段がほぼ皆無であることと範囲攻撃が出来ないということだった。精々物を投げるのがいいとこで遠距離対応能力が低いことを見抜かれれば数に任せて前衛が攻撃を引き付け後衛が遠距離攻撃の雨を降らせられるだけで終わるのだ。ましてや今は暴走状態で身体の制御が効かず撤退も出来ない。


『取り敢えず混乱が収まらない様に虚勢も張りつつ攪乱、距離を取ろうとした者や統率を取ろうとした者を優先的に殺すしかない。・・・そのうちテレーズを助ける為に援軍が来てくれると思うが、そこまで持つか?』


中身ガタガタのボロボロなのを虚勢の咆哮や攻撃で誤魔化しつつほどんど残っていない体力や精神力を絞り出し援軍が現れるのを待つ昇。これじゃ張り子の虎ならぬ張り子の魔人だなと苦笑しつつ蹂躙という名の死闘を演じる。

こうして気取られれば死が待つ演武は続いていく・・・。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る