028「あさちゅん-1」

温かさで目が覚めた。


普段感じる事のない心地のいい温かさに包まれているような、そんな感覚。


何か、このまま起きるのが嫌になるから二度寝したくなるんだけど今日も仕事のはずだから起きなきゃいけない。


仕方ないけど、目を開いて起きるとしよう。


「……………………………えぇ」


目の前に見慣れてはいるけど、見慣れることがない顔があった。


うっすらと赤みを帯びた白い肌、伏せられた瞼には長いまつ毛、エルフ族の特徴でもある長くとんがった耳、絹のような細くて艶やかな金色の髪、少しだけ開いた柔らかそうな唇、残念な中身さえ知らなければ誰もが完璧だと思う美人さん。


うん、レーラさんが俺の横で寝てる。


ちょっと待て、何でこうなってる!?


落ち着け、落ち着いて考えよう…………あれ?俺って服着て無くない?これ裸じゃない?


あー、うん。何か温かいと思ったけど、レーラさんに抱き枕にされてるのね。


しかも、レーラさんも裸だよねこれ?色々当たってるような気がするよ!?


毛布のせいで直接は見えないのが残念といえば残念だけどね。


「…………んん」


妙に色っぽい声出して抱き直さないで下さい、いまそれどころじゃないんです。


思い出せ、何でこんなことになっている?


たしか、昨日は………。


えーと、森に行ってクマさんを狩って帰ってきたらレーラさんにお説教という名の殺人未遂されて、そこからの記憶がない。


場所は、レーラさんの部屋か?見覚えのある物があるし。


てことは、ぶっ倒れた俺を治療して運んで来たのかな?


うん、切り飛ばされたはずの右腕と左足は感覚がちゃんとあるから治してもらえたっぽい。


というか、右腕に関してはレーラさんに抱きしめられているせいで当たっちゃいけない柔らかかったり、ちょっとだけ固い物が当たったりしてる感覚があるんだけど。


…………身体的には13歳だから刺激が強すぎるよ。


しかも、レーラさんがっちり抱きしめて寝てるから俺動けないんだけど。


女性特有の柔らかさと人肌の温かさに包まれながら朝を迎えるとか幸せ過ぎだけど、そういうのはもう少し大人になってからでもいいのではないだろうか。


でも、この世界って結婚とかするの早いんだっけ?貴族とかそういう人達は10代前半で婚約者が決まってたり結婚してたりするって何かで聞いたことあるけど。


んー、どうにかして抜け出せないかな?


せめて、もう少しだけ顔を離したいんだけど。


少し動いただけでキス出来そうな位置にレーラさんの顔があるのは大変によろしくない。


やったら事案だけど、物凄くキスしたくなるような柔らかそうな唇が無防備に目の前にあるのは本当によろしくない。


いや、年齢的に事案になるのは俺じゃなくてレーラさんか?


エルフであるレーラさんの実年齢知らないけど、見た目は大学生くらいだし。


レーラさんのことは嫌いじゃないし、というか実はかなりタイプなんだけど……恋愛対象というか結婚対象として俺は見られてないだろうから余計な希望を持ちたくない。


前世では結婚は出来なかったし、自由でいたかったから社会人になってからは恋愛とかしてなかったし。


いまの俺は孤児だし、まだガキだから結婚とか考えるような年齢じゃない。


…………そもそも、こんな美人とじゃ釣り合いが取れないからなぁ。


顔面偏差値とスタイルの良さから来る暴力には平凡な俺じゃ勝てないのである、身長ですら負けているし。


なので、とりあえず今の状況から少しでも抜け出したい。


ずっとこのままでいたくなるような安心感のある温もりと気持ちよさなんだけど、そういう訳にもいかない。


まだ年齢的にそこまで性欲もないので襲いたくなるような衝動がないのは救いではあるけど、それでも俺は中身は大人なのでよろしくはない。


今のところは大丈夫みたいだけど、レーラさんが起きた時に臨戦態勢になってて当たってたりとかしたら恥ずかしくて死にたくなる。


ましてやそれで暴発とかしちゃったら…………やめよう、これは考えたら余計に危ない。


さて、しかしどうやって抜け出そうか?


下手に動いたらレーラさんが起きそうだし、抱きしめられているせいで動ける範囲が少なすぎるし。


これ、詰んでない?


なんか、諦めるしかないくらい詰んでる気がする。


んーと色々と考えていると、レーラさんと目が合った。


「…………………………………おはようございます、レーラさん」


ちょっと待って、いつの間に起きてたの??


テンパって普段呼ばない名前で挨拶しちゃったけど、どうしようこれ?


目は開いたけど、まだかなり眠そうな感じのレーラさんは俺を抱きしめている腕を片方だけ放し俺の髪を撫で始めた。


あの、すげぇ恥ずかしいんだけど何してんの?


髪を撫でている手を止め、そのままぴとっと俺の頬に手を当ててくる。


「おはよう、ヴィル。いい朝だね」


笑顔を浮かべて優しい声で挨拶を返してくれたレーラさん。


あぁ、うん。


この人は本当にズルいよね。







その笑顔があまりに綺麗で可愛すぎてズルすぎるんだけど、襲い掛からなかった自分を褒めたい。

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