011「俺の知らない会話」
「それで、何しに来たの?」
「………あの黒髪のガキ、転生者か?」
「さぁ?転生者のような気はするけど、本人に聞いたことないから知らないわ。それより話を逸らさないで、何しにわざわざ来たの?」
「なんだ、用がなければ来てはいかんのか?お前と俺との仲だろう」
「頭でもおかしくなったの?貴方はそういう冗談は言わない人だと思っていたけど」
「………全く、古い友人に会ったんだ。少しは友好的に会話をしようとは思わんのか?」
「思わないわよ。古い友人であることは否定はしないけど、封印されていたはずの貴方が自由になっているんだもの、警戒して当然でしょ」
「まぁ、殺した相手を警戒するのはわかるが。俺とて好きで殺した訳ではないことくらいは理解しているだろう」
「貴方が私を殺したことについては理解も納得もしているわ。でも、それとこれとは別よ。いつ封印が解けたの?」
「封印が解けたのは5年程前だな、何故封印が解けたのかは俺にはわからん」
「………………それで、いい加減にここに来た理由を話して欲しいのだけど?」
「情報収集だ。お前なら俺が封印されていた間の情勢も詳しいだろ?」
「本当にそれだけ?」
「どんだけ警戒してるんだよ、本当に情報収集の為に来ただけだ。まぁ、面白い物が見つかったからしばらくは退屈しなさそうだけどな」
「…………………ヴィルに何かするつもり?」
「おいおい、そう睨むなよ」
「睨みもするわよ。私は貴方を同類として信用はしているけど、信頼は一切してないわ」
「そうかよ。それにしても、お前が他人に入れ込むタイプとは知らなかったよ」
「私は元々身内には優しいわよ。そのときの人生で出会って私が身内であると認めた人には特にね」
「人間じゃなくエルフになったところで本質は変わらないと?」
「変わらないわ。人間だろうと、エルフだろうと、他の種族であったとしても私は私だもの」
「そうか……まぁ、お前が今の人生を楽しめているなら俺はそれでいい」
「……………本当に頭大丈夫?貴方にそんな感傷的なことを言われるとは思ってなかったんだけど」
「俺とて感傷的になることもある。仕方なかったとはいえ、殺した相手が今を楽しそうに生きているとなればな」
「何百年も前の事を引きずって感傷的になるなんて、世界を滅ぼそうとした人とは思えないわね」
「感傷的にもなれん奴は世界を滅ぼそうなんて考えもせんよ」
「…………まぁ、いいわ。それで、ヴィルをどうするつもり?」
「お前、本当に気づいていないのか?」
「ヴィルが転生者かも知れないってことなら気づいているわよ。本人に隠す気があるのかどうか知らないけど、初めて会ったときから孤児院育ちの子供にしては知識や言動に子供っぽくない部分が多かったし」
「いや、そうじゃねぇよ」
「なら、どういうことよ?」
「ひょっとして、本当に気づいてないのか?」
「だから、どういうことよ?」
「あのガキ、ゼンと同じ魔力をしてるってことに本当に気づかなかったのか?」
「……………は?」
「魔力の制御がまだ上手く出来てないからだろうが、漏れ出てる魔力がゼンと同じだぞ」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!それどういうことよ!?」
「そんなこと俺が知るかよ」
「他人と同じ魔力になることなんてないって貴方も知ってるはずでしょ!?」
「だが、あのガキから漏れている魔力はゼンと同じだぞ?」
「………彼が転生してヴィルになったとでも言うの?」
「それはない、ゼンが転生したとしたら俺やお前が気づかないはずはない」
「そうね、ならどういうことよ…………」
「しかし、何年も一緒にいたようなようだが本当に気づかなかったのか?」
「えぇ、彼の魔力なら私もわかる。なのに、どうして気づかなかったのかしら」
「………………………あの右眼かもな」
「右眼?」
「あのガキ、左眼に比べると少し右眼の色が濃かっただろ?」
「たしかにヴィルは右眼の方が濃い黒色をしているけど、魔眼だとでもいうの?」
「魔眼程度ならお前が気づかないとは思えない。となると、加護かも知れんな」
「加護?じゃあ、彼がヴィルに加護を与えて転生させたってこと?」
「実際はわからん。だが、そうであるなら話が通るだけだ」
「……そうね」
「どっちにせよ、あのガキには注意しておけ」
「ヴィルが危険だとでもいうの?」
「さぁな。だが、ゼンと同じ魔力を持っていることだけで注意する必要はあるだろ?」
「ヴィルが危険じゃなくて、彼と同じ魔力を持っているってことが危険になるかも知れないってことね」
「そういうことだ」
「……わかったわ。それとなく注意はしておくけど、貴方がヴィルに手を出したらただじゃおかないわよ」
「……………………まぁ、いいだろう」
「何よ、いまの間は」
「気にすんな。それと、頼みがあるんだが」
「…………貴方が私に頼み事をするなんてどういうこと?」
「髪を切ってくれないか?長くて邪魔なんだ」
「それ、わざわざ私に頼むことなのかしら。まぁ、いいけど」
「助かる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます