010「エルフの薬屋さんというテンプレ-4」

店内も暗くなって来たので灯りを付ける魔道具を起動して店内を掃除、今日の売り上げを確認する。


「んー、傷薬系の売り上げが少し増えてきてるな。この辺の在庫を増やしてもらうようにするか」


冬の間大人しかった動物や魔物が活動を始める時期だし、そういえば最近は猟師や冒険者みたいな感じの客が少し増えた気がする。


「となると、解毒薬とかも少し多めに在庫を持っておいた方がいいかな」


薬の在庫をメモして薬の素材が保管してある部屋に向かう。


「傷薬も解毒薬も素材の在庫は問題ないかな。ポーション用のガラス瓶が少ないか、これは明日注文しよう」


レーラさんに調合して欲しい物のリストをまとめて調合部屋の扉にメモを貼っておく。気が向いたら調合してもらえるだろう。


さて、あとは看板取り込んで帰るか……って。


「こんな時間に誰か来た?」


店の扉についてるベルの音がしたってことは誰か来たんだろうけど、こんな時間に客が来るってことは緊急で薬が欲しいってことなのかな?


「いらっしゃいませ、もう閉店の時間なんですけど何かお探しですか?」


この時間帯はこういう声掛けは大事、じゃないと長居する客もいる。


店内にいる客の姿が目に入る。


あらやだ、イケメン。


190㎝近くあるだろう長身に、服の上からでもわかる引き締まった筋肉。背中まで届く長い黒髪、彫りが深く年齢を重ねたら渋くてかっこいいおじ様になりそうな顔立ちのお兄さんがそこにいた。


「あ、あの。何かお探しですが」


いきなり現れたイケメンにちょっとだけ慌ててしまう。


「あぁ、すまない客という訳じゃないんだ。店主の知り合いで少し用があってな。いるなら呼んできてもらえると助かるんだが」


声も渋いなこのイケメン!ってレーラさんの知り合い?まさか彼氏さん!?


この店で働きだして長いけどレーラさんに彼氏がいたとは初めて知ったぞ……。


「店長ですか?いま呼んでくるので少々お待ちください」


あの残念美人は夕方に騒いでたのを相手にしなかったら凹んで自室に戻ったので、2階にいるはず。


2階に上がり自室の扉をノックして声をかける。反応なし。


もう一回ノックして声をかける。物音が聞こえたのでここにいることは確定、扉をノック。


ちょっとだけ待って再び扉をノックして声をかけるが反応なし。


コンコンコンコンコンコンコンコンコンコン………。


「ヴィールーうるさーいー。そんなにノックしなくても聞こえてるってー」


あ、やっと出てきた。


「店長にお客さんが来てるので店までお願いします」


小さくため息をつく。なんでこの人はすぐにだらしのない格好になるかな。


「こんな時間に客とかめんどーだよー」


「黒髪のかっこいい男の人でしたので、きちんと服を着てから店に来てくださいね」


さて、レーラさんに声はかけたのでイケメンさんに報告に行きますか。


階段を下りて店に向かう。イケメンさんは棚の商品を眺めて暇つぶしをしていたらしい。


「すみません。店長に声はかけたのでもう少しだけお待ち下さい」


イケメンさんに声をかけるとこちらを見て頷いていたから閉店作業を再開する。


外に出て看板を取り込み店に戻るとレーラさんがちょうど店に出てきたところだった。きちんと服も着ていたので一安心である。


「はいはーい、呼ばれた店長のレーラです…………って」


ん?イケメンのお兄さんを見たレーラさんが何か真顔になってる。


「久しぶりだな。いまは、レーラって呼べばいいのか?」


レーラさんに声をかけたイケメンさんは特に表情も変えずに普通な感じ?久しぶりってことは彼氏じゃなくて元カレさんとかか?レーラさんがめっちゃ睨んでるし。


「………ヴィル。今日はもう帰っていいわ。仕事ほとんど終わっているでしょ?」


レーラさん、なんか声も怖いです。


イケメンさんはレーラさんの様子にも全く気にしてないっぽい、レーラさんがあんな風に睨んでる姿は久しぶりに見るな。


結構前に、どっかの街の貴族の男がすげぇ傲慢な態度で色々やらかしたあげくに、レーラさんに求婚した時もあんな感じで睨んでたっけ。


……最終的に、その貴族はガタガタ震えながら帰っていたけど。


まぁ、雰囲気からすると訳ありな関係っぽいしレーラさんのプライベートに首を突っ込む気もないから素直に帰りましょう。


「じゃあ、今日もお疲れさまでした。僕は明日は休みなので明後日にまた来ますね」


微妙な雰囲気を作る二人の横を抜け荷物を持って裏口から外へ出る。


朝に声をかけてくれたお店に顔を出し適当に買い物しながら孤児院へと帰る。


さっきのレーラさんはちょっと怖かったけど、基本的に何かあっても引きずらない人だから明後日には何事もなかったかのようにまたぐーたらしてそうだな。





そんな他愛もないことを考えながら帰り道を歩いた。

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